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木ノ下歌舞伎 秋の特別講座「キノカブの学校ごっこ」前夜祭レポート【2018年レポート】

写真:馬杉真理子
企画名木ノ下歌舞伎 秋の特別講座「キノカブの学校ごっこ」
団体名:木ノ下歌舞伎/一般社団法人樹来舎、「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会、墨田区
開催日:2018年11月09日(金)
会 場:YKK60ビル AZ1ホール

「キノカブの学校ごっこ」が始まった。木ノ下歌舞伎主宰・木ノ下裕一自身による講義をはじめ、ゲスト講師のレクチャーやワークショップなどが目白押しの、古典芸能がたっぷり学べる講座シリーズだ。

まずは、前夜祭「桂吉坊 木ノ下裕一 ふたり会 凸凹伝芸教室@すみだ」の模様をお知らせしよう。内容は三部構成。吉坊による高座と木ノ下のレクチャー、そしてふたりが交わす古典談義だ。

吉坊は「足上がり」を披露。吉坊の大師匠(師匠の師匠)にあたる三代目桂米朝が得意とした芝居噺である。芝居好きの番頭が、やはり芝居に目がない丁稚の定吉と歌舞伎「東海道四谷怪談」を見に出かけ、先に定吉を帰す。そして番頭は帰宅後、芝居の続きを巧みに演じて定吉に聞かせる。大づめの「蛇山庵室(へびやまあんじつ)の場」だ。

このシーンは、燃えあがる提燈からお岩の幽霊が登場する、「提灯抜け」として名高い場面。三味線や太鼓による演奏が吉坊の語りに寄り添って、いちだんと盛り上げた。このように、江戸落語と上方落語は、音楽の使い方が異なる。江戸では出囃子に使うくらいだけど、上方では、歌舞伎と同様に物語を引き立てるため、噺の途中でも演奏されるのだ。よって、吉坊の「足上がり」が、歌舞伎愛好家たちが大半を占める客席を大いに沸かせたのは言うまでもない。

続いて、木ノ下による「東海道四谷怪談」の解説が始まった。この物語には、現在の墨田区や隅田川が舞台となった場面が多く登場。くだんの蛇山もそのひとつで、現在の地名でいう吾妻橋や東駒形のあたりだ。また、鶴屋南北作のこの怪談の初演は文政8(1825)年。1日がかりの大長編だが、やはり長い『仮名手本忠臣蔵』と併せて2日にわたって上演されたという。木ノ下は、「東海道四谷怪談」の物語をかいつまんで説明していく。しかし、いかにも講義っぽい堅苦しさは皆無。ところどころ名調子で台詞を唱えるので、すこぶる楽しい。また、ストーリーの要約だけにとどまらない。当時を生きた人々の思想や、作品の背景も語る。たとえば、この怪談はお岩の顔が一変するエピソードで知られるが、当時は容姿が醜くなると性格さえも歪むという価値観があったのだとか。このように、多角的に四谷怪談をとらえていくのだ。

そして最後は、吉坊と木ノ下の掛け合いだ。締(しめ)太鼓や大太鼓、銅鑼(どら)など、「足上がり」で実際に演奏された楽器が舞台に並ぶ。歌舞伎で使う楽器と同様のものばかりだ。ふたりの絶妙なトークとともに、吉坊はこれらを複数のばちを使い分けて演奏。さすがは米朝一門、話芸のみならず、伝統楽器の演奏にも長けていることをありありと示した。

さらには、ツケの実演も。歌舞伎でお馴染みの、板に”附け木”を打ちつける効果音だ。吉坊がツケを鳴らし、木ノ下が歩いてみせる。まずは、ささやかな音量でツケを鳴らし、そろそろと歩く。次は大きな音で、大股でさっそうと歩く。

吉坊は言った。
「学校ごっこやのうて芝居ごっこや!」

このように、前夜祭は始終にぎやかに時間が過ぎた。そして、本日の受講者にとっては、次に「東海道四谷怪談」を見る際に新しい発見が得られるに違いない。

 

新川貴詩(しんかわ たかし)
兵庫県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。現在は東京都在住、隅田川沿いに暮らしています。美術ジャーナリストとして、新聞や雑誌、Webサイトなどに文章を執筆。また、展覧会企画にも携わるほか、学校教員や編集者も務める。「隅田川 森羅万象 墨に夢」では、昨年に引き続き今年も選考委員を担当。

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