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江戸に浸かる ~遊ぶ・食らう・感じる~下町に夢。【2016年レポート】

企画名江戸に浸かる。~遊ぶ・食らう・感じる~下町に夢
団体名:寺島・玉ノ井まちづくり協議会
開催日:2016年11月19日(土)~11月20日(日)
会 場:旧向島中学校(墨田区東向島4-18−9)

 

1日目 夜の宴

 旧向島中学校の校庭入口に関所があり、白い川と太鼓橋で平成の町と江戸の町が隔てられていました。白い川は、水晶を敷き詰めた上に数え切れない透明のカップが置かれ、中で金魚が泳いでいました。日が暮れるとともに川はライトに照らされて、白い水晶と赤い金魚は幻想的な光景を浮かび上がらせました。

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 関所で通行税(入場料)100円を払い、通貨を円から江戸時代の文(もん)に交換します。レートは1文=25円で、これは当時1両=4000文にちなみ、1両=1万円としたことによるものです。4文銭には四角い穴があいていて5枚1組が紐でくくられています(500円に相当)。蜆(しじみ)鍋12文、おでん8文等々を円に換算すると複雑ですが、それぞれ4文銭3枚、2枚と数えると単純に解ります。

 

 江戸の町には、角打ち(立ち飲み)酒屋、おでん、しじみ汁、江戸餃子(水餃子)、お汁粉、天ぷら、お蕎麦の屋台が並んでいます。屋台係も案内係もスタッフはみな着物姿。地元東向島のリ・ファッション協会が協力したものです。

 屋台のメニューはいずれも江戸の町にちなんだもの。時代考証というよりも、「江戸時代の人たちはこんなものを食べていたのではないか」とスタッフが頭をひねりました。

 たとえば、江戸餃子は、水戸黄門こと徳川光圀が作らせたことは文献から解っていますが、レシピが解らない。そこで葛飾食育クラブの渡邊洋年さんが当時の食材から考案しました。当時、キャベツや白菜がなかったのでダイコンでシャキシャキとした食感を出す。牛肉豚肉は食べなかったので鶏肉を使用。うまみ調味料がなかったのでエビとイカで出汁を取る。焼き餃子が生まれたのは近代なので水餃子にする、といったあんばいです。

 

 そば屋春吉の隣には天ぷらの魚八栄五郎。これも当時2つの屋台が並んで営業していた絵図にちなむもの。来場者は当時と同じように、春吉のあと魚八栄五郎のまえに行列を作っていました。「下町から生まれたニンジンのかき揚げ」は、作っている若い農家が向島出身なのだとか。ニンジン臭さのないさっぱりとしたお味でした。

 

 しじみ汁は納豆と並ぶ、江戸時代の朝食の定番。ホタテのヒモを入れて少し現代風にアレンジされていました。小学生の女の子が「暖かくて、子どもにも優しいお味、どうですかぁ」と声を張り上げ、角打ち酒屋岩田屋でも子どもの店員さん2名がお客さんに応対していました。

 

 体育館では菓子遍路「一哲」による上生菓子のワークショップが開かれ、たくさんの人が(中には親子連れも)和菓子作りに挑戦していました。

 

 中国からの留学生5名も着物姿でお手伝い。「着物はとても新鮮です」と流ちょうな日本語で話してくれました(画像には日本人スタッフと一緒に写っています)。

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 日がとっぷり暮れると、体育館前のステージでアトラクションが行われました。

 向島芸者のなつき姉さんは舞い3曲の後、宴会芸を来場者参加で披露してくれました。「♪金比羅舟々シュラシュシュシュー」の唄に合わせて卓上に伏せた湯飲み茶碗にお客さんとなつき姉さんが交互にタッチ。片方が茶碗を取りあげると、相手は卓上に「グー」を出すルールです。ここで間違えると負けで、罰としてお酒を飲む訳ですが、その時もなつき姉さんから「××さんは男前」などの可愛らしい囃子声がかけられ、本当にお座敷にいるような気分になりました。

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 「風の器」は2人組3体の人形ダンスパフォーマンス。凹凸ある人形の顔が照明に照らされて幻想的な雰囲気でした。

 

 影絵「少年春吉が見た北斎」は、スタッフの中西ていこさんを中心に実行委員会スタッフが原案を練り、作画もスタッフの捧(ささげ)繁美さんが担当しました。捧さんは浮世絵の版画彫り職人に敬意を払って影絵を作ったそうです。

 物語は、そば屋の息子春吉から見た北斎の絵描き生活。ラストが北斎美術館につながるのも、手づくりならではでしょう。

 

 

 2日目 昼の縁日

 校庭では、昔遊び(縄跳び、羽つき、お手玉、竹馬、けん玉、独楽回し)のスタンプラリー、大勢の親子連れで賑わいました。我が子に独楽回しを得意げに教えるお父さん、羽つきに興じるカップルなどの姿も見られました。

 紙ひこうき、草履飛ばし大会、メンコ大会も開かれ、東向島児童館と墨田児童会館のスタッフが遊び方の指導や大会の進行などに活躍していました。

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 屋台やメニューも少し増えていました。

 北斎の雅号「北極星」にちなむ玉ノ井七星茶では七星茶(珈琲)と枇杷葉湯(びわようとう)が供されていました。珈琲は江戸時代の初めに日本に伝来していたとか。枇杷葉湯は名前の通り、ビワの葉を煎じたお茶で、江戸時代は清涼飲料として売り子が町を売り歩きました。

 せんべい屋武彦は手焼き煎餅の屋台。江戸時代、売れ残った団子の処分に困っていた和菓子屋にお侍が「つぶして乾かし、焼き上げるとよい」と教えたのが由来だとか。子どもたちが火鉢の上の煎餅を返すお手伝いをしていました。

 

 午後は、捧(ささげ)繁美さんの墨絵パフォーマンス。3m×4.5mの大紙に墨で絵を描いていきます。かつて映画の広告看板を描いていたという捧さんは少しの迷いやためらいもなく筆を走らせます。就学前の子どもたちが紙のそばから食い入るように見つめていました。墨の絵はみるみるうちに達磨像となっていきました。

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 続いては、カエルおじさん田村直巳さんの紙芝居「北じいと茄子之介 すみだまちある記」の上演。「北じい」は北斎、「茄子之介」は地元の江戸野菜「寺島ナス」をモチーフにしたキャラクターで商店街のマスコットにもなっています。

 ある夜、蘇った北斎が茄子之介と出会い、もう一度絵が描けるようにと墨田の神社仏閣に願をかけて回る話。北斎ゆかりの柳嶋妙見山法性寺と北斎美術館が出てくるのは「お約束」でしょう。

 

 午後3時、全てのプログラムが終了しました。スタッフが全員集まり、三三七拍子で打ち上げました。

 「江戸を浸かる」は旧向島中学校の跡地利用に取り組んできた人たちが、地元のまちづくり協議会、町会、商店街、児童館・コミュニティセンターに働きかけて実現したものです。この次は何を仕掛けてくれるのか、今から楽しみです。

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レポーター:山田岳(やまだがく)

エンジニア、放送作家を経て、個人事務所「ただすのもり環境学習研究所」を開きました。地域コミュニティと地域経済と環境が並び立ち、子や孫の世代まで安心・安全に暮らせる世の中を目指して情報を発信中です。「すみゆめ」では伝統と環境、歴史ある墨田区らしさ、誰も取り残さない社会づくり、をテーマとするイベントに注目しています。

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