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風景とともに音を聞く「すみだ川ラジオ倶楽部 川を流れる七不思議編」【2022年イベントレポート】

企画名すみだ川ラジオ倶楽部 川を流れる七不思議編
団体名:uni
開催日:2022年11月19日(土)〜12月25日(日)
会 場:隅田川沿い各地/あなたの好きな場所
※視聴用URLよりスマートフォンなどで再生

風景とともに音を聞く──そんな体験をさせてくれるのが、uni(うに)が発表した「すみだ川ラジオ倶楽部 川を流れる七不思議編」だ。
この作品は、隅田川を題材としたラジオ番組仕立ての7編から成り立つ。uniの説明によると、「隅田川沿いのさまざまな場所を舞台にした架空の『個人放送』に耳をかたむける、音声だけの演劇作品」とある。

特設サイトに音声ファイルがアップされ、鑑賞者はPCやスマートフォンで自由に聞ける仕組み。また、それぞれの物語は両国リバーセンターや白髭橋のたもとなど、隅田川沿いの7カ所の視聴スポットが設定されている。
鑑賞者はその場に足を運んで聞くのもいいし、自宅やカフェで聞いても構わない。どの物語もスポット周辺の風景がふんだんに描写されるから、スポット以外のところで体験しても「風景とともに音を聞く」ことには変わりない。

ざっくりと概要を説明すると、まあ、こんな感じだ。
でも、ここで疑問が起きる。
これが「演劇作品」ってどういうこと? 
そもそも「音声だけの演劇作品」なんてありえるの? 

これは、音声ファイルを聞くだけでは、理解が難しそう。そこで筆者は、uniのメンバーが案内する「『ラジオ倶楽部』ガイドツアー」に参加した。

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ガイドツアーは12月11日に実施された。ガイド役は、戯曲を担当した魚田まさや、uniの代表で演出を手がけた阿部健一、出演者でuniメンバーの高橋由佳の3名が務める。
よく晴れた日、隅田公園のそよかぜ広場に集合し、ツアーは始まった。7つのスポットのうち、このツアーでは4カ所を巡る。

まずは、北十間川河川テラスに到着。ここで「老戦士たちの放送局」に耳をすます。言問橋に近い川底にあるスタジオという設定で、タヌキのMCマミーとカッパのMCキューチャンによる、「ぽこぱんちは〜!」「カッパドキア〜!」と賑やかな掛け合いが楽しい。2人はリスナーからの投稿を読む。
MCキューチャン役を務めた高橋由佳が収録の様子を朗らかに振り返る。
「普通の舞台と違って声だけなので、まずは聞き心地が悪くならないように、とにかくかまないように気をつけました。でも、少し甘がみしゃいましたけど」

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そして、2人の愉快なやりとりを聞き進めるうち、次第にムードに変化が訪れる。約140年前の洪水や、近隣エリアの住民たちとの闘争などにも話題が広がるからだ。
そうはいっても、2人の声のトーンやノリは同じまま。愉快でテンポもいい会話だけに、楽しさの背後にある、この地域のダークサイドがいちだんと際立つ。

そして、てくてく歩いて各スポットを訪れる。それぞれ異なる物語が語られるが、どの場所にも共通するのはベンチがあること。既存のベンチが大半だが、墨田区役所うるおい広場やすみだリバーウォークの2カ所には、今回の作品のためにuniが設置したベンチもある。
演出の阿部健一は語る。
「どちらのベンチも、その場所ならではの、そして物語に沿ったデザインです。もちろん、ぼくらの作品のことなどまったく知らない人たちが、ただのベンチとして使ってくれてOK。墨田区役所うるおい広場では、この間ギターを弾いて歌ってる人がいました」
つまりベンチは、舞台装置である。そして、この作品をきっかけに、コミュニティの新しい拠点が生まれた。

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鑑賞者はベンチに座ったり、周囲を歩いたりしながら、ラジオを聞く。船が行き来し、電車が通り、次第に日が傾いてゆく。その日は日曜ということもあり、けっこうな人出だ。
すると次第に、いま目の前にある光景が現実のものなのか、それとも物語の中の出来事なのか、区別があいまいになってくる。
つまり、目の前に新しい世界が立ち現れる。ものの見方を変えてくれる。
このふたつの現象は、演劇の重要な役割だといえる。うん、この作品は紛れもなく演劇だ。

また、全編に共通する点もある。直接的には語られないが、7つのどの物語にも死の影が漂っていることだ。濃淡の差はあっても、どの話も死が潜む。
隅田川を題材に、死を扱う。そして、夢と現実が混じり合う──。
ここで思い出すのは、隅田川ものだ。
隅田川ものとは、室町時代の能『隅田川』を出発点とする浄瑠璃や歌舞伎の演目のこと。隅田川のほとりでわが子を失う母親の物語だ。
戯曲を担った魚田まさやは語る。
「ええ、隅田川ものは意識しました。前々から好きで、今回、初めは隅田川もののエピソードをそのまま盛り込もうかと考えもしましたけど、うまくいかなくて」

uniによる「すみだ川ラジオ倶楽部 川を流れる七不思議編」は、さまざまな観点から語れる営みである。その場、その地域に特化して作品をつくるサイトスペシフィック・アートに根差して考えてもいいし、随所を巡って作品を成り立たせるツアー・パフォーマンスの流れに位置づけるのもいい。
だが、たかだかここ20年くらいの潮流だけでなく、もっと幅広い視野でこの作品をとらえることも可能なのである。

新川貴詩(しんかわ たかし)
兵庫県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。現在は東京都在住、隅田川沿いに暮らしています。美術ジャーナリストとして、新聞や雑誌、Webサイトなどに文章を執筆。また、展覧会企画にも携わるほか、学校教員や編集者も務める。

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