日々の活動から生まれるそれぞれの表現「すみだを舞台にみんなドレスアップ 隅田川に咲く花でヘッドドレスをつくってみよう!」【2022年イベントレポート】
2022年10月に実施したワークショップ「隅田川に咲く花でヘッドドレスをつくってみよう!」。
この企画をなぜ実施したのか、その準備の過程で考えてきたこと、実施後の変化などを写真と共に、NPO法人トッピングイーストの村瀬が振り返ります。
コロナ禍で気づいた隅田川の魅力と花守活動
今回のワークショップは、トッピングイーストがコロナ前から続けている花守活動をきっかけに生まれた企画です。
花守活動とは、隅田川テラス(※)の花壇でお花を育てる活動のこと。2018年からスタートしたこの取り組みは、地域の人に親しみをもってもらいたいという願いを込めて「はなもりん」という愛称で呼んでいます。
※隅田川の両岸に整備された浸水テラス。複数の地域ボランティアグループが花守をする花壇があり、両国に拠点を置くトッピングイーストもそのひとつを担当している。
コロナの影響でしばらくお休みしていた「はなもりん」は、2021年夏に活動を再開。コロナ禍の隅田川テラスは、観光する人はほとんどおらず、以前よりおだやかで、お散歩やジョギングを楽しむ地元の人たちが多く利用していました。私たちの花壇でも立ち止まる人がちらほら。花をきっかけに、蔵前橋を挟んだお隣の花壇を世話している横網町の老人会の皆さんとも交流するようになり、さらにシニア世代を中心に活動に参加したい!という地元の方々も集まってきました。
人が集まることで見えてきた多世代交流の課題
同じ2021年の秋、トッピングイーストでは「子どもと地域を、音楽とアートでつなぐ居場所形成プロジェクト」も始動。地元の子どもたちが家や学校以外でも気軽に立ち寄れるオープンスペースとして事務所を開放し、音楽やアートに触れられる場づくりも始まりました。
この2つの活動を日々続けてきたことで見えてきたのが、まずシニア世代は同世代コミュニティとの交流が中心となり、特にコロナ禍では子どもや若い世代との交流の機会がなくなってしまったことでした。そして子どもたちはコロナの影響が長期化したことで、表現などを発散する場が大きく失われ、知らない大人との交流を恐れているという状況がわかりました。
今回のワークショップは、同じ街に住むシニアと子どもが安心して交流でき、「アート」や「表現すること」を介してお互いに興味・関心をもち、地域で顔の見えるつながりを生み出すきっかけをつくる。そして隅田川に多世代が交流する新たなコミュニティが育つ機運になることを願い、企画しました。
ヘッドドレスによって引き出される本来の自分
安心して表現できる場があることで、人と人、人と地域をつないでいく
講師はドラァグクイーンのヴィヴィアン佐藤さん。
「ひとづくりはまちづくり」と、全国各地でヘッドドレスワークショップを開催されています。
「ヘッドドレスやお化粧で着飾ることは、全く別の自分に変身するのではなく、どんどん裸になって、本来の自分に戻っていくこと。」「普段隠れてしまっている大切な一面を、ヘッドドレスがアンテナとなってキャッチし、自分でも気づかなかった表現や感情になってあらわれてくる。」とおっしゃいます。
ヘッドドレスをきっかけに、普段話す機会がない世代間でも、自然と会話がうまれるのではないか。そしてそのきっかけを、日頃「はなもりん」に参加するシニアの皆さんにお願いすることで、安心して本来の自分が表現できる場が生み出されるのではないかと考えるようになりました。
ヘッドドレスに使用するのは隅田川で育てている花
日々の活動のひとつひとつが、ワークショップにつながる
ヘッドドレスに使う花は、6月に植え替えたマリーゴールドや千日紅です。
私たちの花壇は蔵前橋のたもとにあり、日中でも日当たりが悪く、高架下のため雨があたりません。花を育てるには環境が厳しく、夏の終わり頃になると、湿気と暑さで花が病気にかかり、秋を待たずして枯れてしまったりと、とにかく手のかかる花壇です。
この課題をどう解決するのか・・・花を育てることの先輩でもある町会の皆さんや、いつも「はなもりん」に参加してくださるシニアの皆さんにとにかく相談することにしました。
毎週お花の様子をみてもらったり、育て方のコツを教わったり、実際にどうやったらこの花をヘッドドレスに使用できるのか。たくさんの経験と知恵からアドバイスをもらい、花で何ができるか考える会もひらきました。ヴィヴィアン佐藤さんにも参加いただき、実際に花がらを使って布を染める実験を行ったり、ドライフラワーをつくってみたり、ヘッドドレスの試作品をつくったりと(なんとお花の先生が身近にいたというご縁も)。手を動かしながら、いっしょに準備を進めていきました。
◎花植え、準備の様子はこちらからご覧いただけます。
≫ 夏の花植え フォトレポート(6月4日)
≫ 花がら染め実験&ドライフラワーづくり フォトレポート(8月14日)
≫ 花がら染め@隅田川テラス フォトレポート(9月10日)
つながりがあれば、だいたいうまくいくという安心感
また花のお世話だけなく、ワークショップの会場探しも花守活動のご縁で決まりました。花壇の近くで利用できる会場が見つからず困っていたところ、横網町会の方に慈光院をご紹介いただき、とんとん拍子で会場が決まったのです。慈光院は花壇から徒歩7分程度のところにあり、全面的に協力してくれることになりました。
すみゆめの寄合に参加した際には、別の場所で花守活動に取り組まれている方からアドバイスをもらったり(当日は参加してくれました!)。気づいてないだけで、身近にはこんなに頼れる人たちがいることを子どもたちに知ってもらいたい!と思うようになりました。
ワークショップ当日、場をつくるのはシニアの皆さん
当日はありがたいことに満員御礼。会場では密を避けるために、そして参加者同士の交流を促すために、子どもたちは保護者の立ち会いなしで参加しました。ひとりで参加する子どもたちの不安や緊張をほぐす自己紹介タイム(アイスブレイク)では、これまで活動をともにしてきたシニアの皆さんにファシリテーター役をお願いしました。グループごとの自己紹介では、シニアの参加者が司会となって子どもたちに質問。地元の大学生や中学生、ボランティアスタッフも会話に加わり、次第ににぎやかな声が聞こえ始めました。緊張がとけたところで、ヴィヴィアンさんにバトンタッチし、実際に花守活動に参加している方を語り部に、花守活動についてもお話ししてもらいました。
◎ワークショップ当日の様子はこちらからご覧いただけます。
≫ 「隅田川に咲く花でヘッドドレスをつくってみよう」フォトレポート(10月9日)
ヘッドドレスづくり、お化粧、街歩き、ランウェイとポートレイト撮影と盛りだくさんの内容に、あっという間に時間がすぎていきました。
最後のポートレイト撮影が終わり、親御さんを待っている入口へ向かう子どもたちは、興奮冷めやらない様子で今日あった出来事を話す様子がみられ、参加前の緊張した表情とは違うほくほくした笑顔からに嬉しくなりました。
今回のワークショップは、子どもとシニアとで体力と集中力に大きな差があったため、時間の使い方に課題が残ったものの、参加者だけでなく、参加できなかった保護者の満足度も非常に高いことがワークショップ後のアンケートからも伝わってきました。
参加者のアンケートには、
「子供達と一緒に手のむくまま、自由に製作出来て良かった」
「普段の生活とは違う、非日常的な体験ができて、刺激にもなれたし、楽しむことができてよかった」
「同じグループのお子さんたち、スタッフさんたちに助けていただいて、楽しく作ることができました。楽しい一日を過ごすことができました。」
「とても楽しかったと言っていました。自分の作品のこだわった所など教えてくれました。」
「おばあちゃんが楽しそうだったこと、かつらをかぶるのは初めてだったけどかわいいと言われうれしかったことを話してくれました。」
など、嬉しい感想がたくさん寄せられました。
また、ワークショップ中の会話から「ワークショップで友達ができた」「◯◯さんがいるなら花守活動も参加したい」という声も聞こえ、ここで出会った人が再び集まれる場として「花守活動」の場づくりについて改めて考えるきっかけになりました。
その後も続く花守活動と交流、新たな表現が生まれる予感
企画に関わってくださった皆さんはというと、今までよりも積極的に花守活動に参加し、現在も交流を続けています。ワークショップ後に実施した花植えでは、隅田川を通りかかる人たちの目線で花のレイアウトを提案してくれたり、花がよく育つよう植え方や手入れの仕方を考えてくれるなど、ただお世話するのではなく、この花壇が通りがかりに人にとっても魅力的になるよう、そして、より過ごしやすい場所になるように工夫しながら参加してくれています。
「こんなことを花壇でやってみたい」など活発な会話も生まれ、にぎやかな花壇では、初めて参加する地元の人たちも少しずつ増え、また慈光院の方も花守活動に参加するようになりました。毎週参加してくれている小学生も、最初は知らない人たちに戸惑っていましたが、今では自分から声をかけたり、伸び伸びと参加しています。
日々隅田川を眺めながら、多世代が交流するなかで、また新たな表現が生まれるのも時間の問題かもしれません。関わる人のやりたいことが表現できる場づくりがこれからの新たな目標となりました。
プロフィール
村瀬朋桂(むらせともか)
愛知県生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業。墨田区在住。
2016年よりNPO法人トッピングイーストに参加。「子どものための居場所形成プロジェクト」「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」の運営に携わっている。