楽しくて奥深い、アフガンボックスカメラの魅力【2016年レポート】
最近のカメラはデジタル化が進みおおむね小型ですが、昔の町の写真屋さんが使っていたのは、大きくて重たいカメラでした。大型カメラは箱の中で何が起きているのかわからないこともあり、秘密の宝箱のような独特の魅力があるように思います。
かつてアフガニスタンでは、オーディオスピーカーのかたちに似たカメラ、「アフガンボックスカメラ」が路上で使われていたそうです。今回は、日本で初めて製作されたアフガンボックスカメラがあるアトリエ「BACKYARD PROJECT」の撮影ワークショップに参加してきました。
スカイツリーを臨み、近くを隅田川が流れる「BACKYARD PROJECT」のアトリエは、もともと工場だったとのこと。スタッフが壁を塗り直し、手を入れたという空間はシンプルで居心地よくて、とってもおしゃれ。ワークショップ参加者が集まると、自己紹介の時間になり、その後さっそくアフガンボックスカメラの説明に入ります。
まずは歴史的背景から。古くより写真文化が豊かだったインドから持ち込まれたといわれるこのカメラが、アフガニスタンに根づいたのは1950年代半ば、政府がIDカードに写真を添付することを採用したためでした。それと共に記念写真の撮影にも使われるようになります。
そして1979年、ソビエト侵攻が始まると、アフガンボックスカメラで撮影された写真が形見としての役目を果たします。その後、治安の悪化と共に写真屋は減り、タリバンが去ると共に再び写真屋が増えたものの、デジタルカメラやカラー写真などの台頭により、2012年には路上に立つアフガンボックスカメラの写真屋はいなくなってしまったそうです。
「アフガンボックスカメラ」の原理は、小さい穴を通してさかさまの像が投影される「ピンホールカメラ」の原理と同じです。
そんな話を聞いた後は、いよいよアフガンボックスカメラの中を見てみます。このカメラは、撮影から現像、プリントまで、すべての工程をこなすため、内部にはネガを作成してプリントをつくるための印画紙の他、現像液と定着液などの道具が入っています。箱に仕込んだレンズの蓋を取って撮影し、感光しないように細心の注意を払って印画紙を液に入れてネガをつくり、ネガをまた印画紙に焼き付けると、写真が出来上がるのです。
座学が終わったら、早速撮影に入ります。一行は墨田公園にカメラを設置し、慣れるまでテスト撮影。カメラの操作に慣れた頃、いろいろな種類のレンズを使いながら、被写体との距離感や背景とのバランスを見て、次から次へとプリントしていきます。
その後、好きな場所へ行って被写体を選ぶことになり、みんなでかわるがわるブランコに乗り、ポーズを楽しみながらのフォトセッション。参加者たちはすっかり技術をマスターし、撮影からプリントまできっちりこなせるようになりました。
ワークショップ中、スタッフや参加者は、写真を撮ったり撮られたり、写真を見せあったりして楽しみました。道行く人も、アフガンボックスカメラが珍しいのでしょう、興味津々の眼差しを送ってきます。大きなカメラを懐かしむご年配の方や、カメラの仕組みに興味がある小学生の男の子、モデルになってくれた着物姿のかわいい少女など、さまざまな人が声をかけてくれました。
撮影が始まると、撮る人・撮られる人・写真を見る人と、様々な関わりが生まれ、広がっていきます。撮影される側だった人や鑑賞していた人も、ポーズを工夫したり、撮影する側に対していろいろな提案をしたりなど、写真を撮るということは、創造的な場を生み出すのだと感じました。
特にアフガンボックスカメラは、不思議な魅力があるようで、参加者は、船のカメラマンや、映像編集者兼ジャーナリストなど、多彩な顔ぶれ。秋の一日、アフガンボックスカメラを手に、地域の魅力を発見するワークショップとなりました。
レポーター:中野昭子(なかのあきこ)
システム系の会社にSEとして在籍しつつ、派遣先の株式会社IHIエスキューブが運営する美術紹介サイトArt inn(http://www.art-inn.jp/)の編集部員として活動中。その他、美術系のサイトや雑誌に執筆しています。芸術全般が好きですが、特に興味があるのは写真を使ったアートと文学です。分かりやすく伝わるようにレポートし、少しでもたくさんの方に喜んでいただける記事を書きたいと思っています。