2020年5月、緊急事態宣言が解除されて間もない隅田川には、これまで見たことのない静かな時間が流れていました。
「ファスナーの船」のドローン撮影の合間、川沿いを歩きながら川面に映る街や橋の影をぼんやりと眺めていました。
揺れる川面に目を奪われ、時が経つのを忘れていたことに気づきました。ほんの束の間の出来事ですが、水面に映る隅田川の「今」と、自分の中に流れる時間がぴったりと重なり合ったような気がしました。
そして、その水面のなめらかな動きが目に見えない無数の水分子によって構成されていることを意識しました。
「ファスナーの船」が隅田川を走行するたびに、水面の水分子たちは、右か左に分かれます。次は右かな?それとも、左かな?自分が水分子の一員になって、次は墨田区側かな?台東区側かな?と、流れに身をまかせて川面に漂っているような不思議な妄想が膨らみました。
実際には目に見えないけれど、隅田川に船が通るたび、水分子の席替えがはじまります。しばらくすると、水分子はファスナーの新しいエレメントになって結びつき、そこに思いがけない出会いがうまれているかもしれない。そんなイメージが湧いてきました。
地球上のさまざまな場所を巡って、隅田川にやってきた水分子たち。目に見えず動きも予測できないものが集まってできた偶然のかたち。なかなかぴったりはまることのないものを「パズル」に見立てました。
そして、隅田川に訪れたひとりひとりの中に流れる固有の時間を「水のパズル」として集めることで、そこに浮かび上がる「今」を皆さんと見つめてみたいと考えました。
また、水は川や海だけでなく、雨や雪そして空気中の水分子も含めると、姿を変えて地球上を絶え間なく巡っています。海、川、湖、池、水たまりなども「水のパズル」の1ピースになります。隅田川に来られない方は、身近な場所で出会った水面の映像を投稿してください。
過去に何気なく撮影した水面の映像もぜひ探してみてください。
ご参加をお待ちしています。
鈴木康広