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路上生活者による生々しい肉体表現【2017年レポート】

写真:岡本千尋
企画名新人Hソケリッサ!路上ダンス「日々荒野」路上にて生まれる景色と未来の行方
団体名:一般社団法人アオキカク
開催日:2017年09月16日(土)
会 場:錦糸町駅南口駅前広場

研ぎ澄まされ、洗練された身体表現──。
ダンス公演をほめ称えるにあたって、そんな手あかのついた言い回しがある。だが、その種のフレーズともっとも遠いところに位置するのが、新人Hソケリッサ!の表現だ。

新人Hソケリッサ!は、2005年にアオキ裕キを中心に結成。メンバーは、路上生活者およびかつて路上生活を経験していた人たちである。
つまり、アオキをのぞいてダンスの経験者ではない。
では、そんな彼らは、どのような表現を見せるのか?

9月16日、JR錦糸町駅南口広場で新人Hソケリッサ!の屋外公演が行われた。「錦糸町駅前ダンス」という、そのまんまのタイトルである。
この町は、にぎやかと言えば聞こえはいいけれど、むしろ喧騒と呼ぶほうがしっくりくる。公演が実施されたのも、周囲はネオンサインが強い光を放ち、さまざまな国や地域の言葉が耳に届き、バスロータリーにはひっきりなしに自動車が行き交う場所である。

空が暗くなったころ、ゆったりと公演が始まった。観客が集うエリアとは少し離れた場所から、長い棒を肩で抱えた男たちがゆるやかな足取りで歩いてくる。地面には、レッド・カーペット。このシンプルな仕掛けだけで、いとも簡単に場は一変した。日常的な町が、たちまち非日常的な場へと化したのだ。

写真:岡本千尋

写真:岡本千尋

そして、客が取り囲む中、男たちは体を動かす。歩いたり、足を踏みつけたり、体を反らしたり、腕を振ったりした。本文の冒頭に記したとおり、そこには「研ぎ澄まされ、洗練された身体表現」は見当たらない。
その代わり、生々しい肉体が目の当たりにできた。そう、身体というより肉体なのである。

大半のダンス・カンパニーのダンサーたちは、特別な身体能力の持ち主たちである。日頃から熱心にトレーニングに取り組み、巧みで優雅なダンスを見せる。高く跳び、速く回転し、リズミカルに舞う。
その一方、新人Hソケリッサ!のメンバーたちは、無骨に体を動かす。もがくように肉体を見せる。
つまり両者は、アプローチがまるで異なる。だが、共通する点も実はある。体を用いて、生という営みを表現する点だ。

そして、彼らの生という営みは説得力をもって客に伝わったと見ていい。というのも、公演スタート時と比べ、次第に客が増えていったことが何よりの証だ。おまけに、公演途中から雨が降り始め、しかも傘が不可欠なくらいの雨量にもかかわらず、通りすがりの多くの人たちがその場で足を止めた。

 

なお、客の足を止めたのは、メンバーたちの表現に力があると同時に、アオキ裕キによる作品構成の妙も大きい。ソロのシーンも見せれば、デュオもあり、群舞もある。客を飽きさせない工夫や、客の集中力を維持させる術が施されているのだ。つまり、ダンスとしては素人同然ではあっても、その見せ方はプロフェッショナルな方法論が発揮されているのだ。

やがてフィナーレを迎えた。人力による回転舞台が出現。最初のシーンで持ってきた棒を組み、円形のステージを男たちが押して回す。回転舞台といっても、歌舞伎や商業演劇のような華やかさはむろん皆無。やはりここでも、無骨な体の動きが見られるのみ。さらにいえば、このシーンにおける労働に近い体の動かし方は、彼ら独自の肉体表現という強さをも備える。

写真:岡本千尋

写真:岡本千尋

写真:岡本千尋

写真:岡本千尋

そしてこのシーンを終えた後、彼らは客の前を離れ、雑踏に去っていった。それまで舞台だったエリアは、元の姿に戻った。この演出も巧みである。

ところで、「ソケリッサ」という言葉は造語で、「それ行け!」とか「前に進む」という意味を込めたという。彼らはこれまで劇場で公演することも多かったが、今年はあらためて路上に立ち、目下、『東京近郊路上ダンス「日々荒野」ツアー』を実施中だ。
ツアー前半は首都圏の10カ所で公演を行う予定で、10月7日には墨田区役所前で「うるおいダンス」が発表される。錦糸町駅前の雑踏とはまったく異なる環境のもと、新人Hソケリッサ!の肉体表現がどのように「前に進む」のか、興味は尽きない。

 

 

新川貴詩(しんかわ たかし)
兵庫県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。現在は東京都在住、隅田川沿いに暮らしています。美術ジャーナリストとして、新聞や雑誌、Webサイトなどに文章を執筆。また、展覧会企画にも携わるほか、学校教員や編集者も務める。「隅田川 森羅万象 墨に夢」では、昨年に引き続き今年も選考委員を担当。

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