隅田川の風景をしっとりと堪能!「すみゆめ踊行列」【2018年レポート】
「すみゆめ」のキックオフイベントとして例年行われてきた「すみゆめ踊行列」。2018年は、吾妻橋船着場がこの日限りの「隅田川埠頭」に変身。屋形船、水上バス、水上タクシーなどが集い、船上や親水テラスなどで水辺の風景を楽しむことのできる一日になりました。
まずは、屋形船や水上バスなどで行われた6つの船上プログラムから「遊覧シンポジウム」をご紹介します。このプログラムは、通常は貨物の運搬などに使う台船をすみゆめ特別仕様にして行われる予定でしたが、雨上がりの不安定な天候のため、会場を屋形船に変更して行われました。
シンポジウムに登壇したのは、隅田川を挟んで隣接する墨田区の山本亨区長、台東区の服部征夫区長と、アーティストの鈴木康広さんです。登壇といえども場所は屋形船。川を背に座る3人と司会のレイチェル・チャンさんを同じ目の高さで参加者が囲むようにして座り、ゆったりとした雰囲気の中で行われました。
鈴木さんが手にしているのは、すみゆめのパイロットプログラムとして実施予定の「ファスナーの船」の模型。瀬戸内海の島々などを舞台に2010年から開催されている瀬戸内国際芸術祭にも出展された作品で、ファスナーのスライダー部分を模した外観の船が水上を走ると、水面を開くように現れる波の跡が一体となりファスナーに見えるという、ひらめきを具現化した楽しい作品です。
両区長からは、この作品プランへの感想や制作の進め方への質問などが続き、話題は隅田川エリアの風景におよびます。山本区長からは、隅田川をセーヌ川、スカイツリーをエッフェル塔、雷門を凱旋門に例え、それぞれが東京における重要な文化・観光資源と言えるのだから、エリアとしての魅力をさらに発信していこうという視点。服部区長からは、そんな隅田川エリアに、墨田区や東京藝術大学との連携事業によりアート作品を設置し回遊性を高める取り組みなどを行ってきたことや、2年後の東京2020オリンピック・パラリンピック大会を見据えた抱負などが語られました。鈴木さんが、隅田川のために制作をすすめているファスナーの船により、どのような風景がもたらされるのか。期待がふくらむ内容でした。
シンポジウム終盤では、登壇者も参加者も全員で屋形船のデッキに上がり風景を楽しみます。周囲には、同時開催の船上プログラム「歴史散策ツアー」「隅田川フォークジャンボリー」の水上バス、隅田川をリサーチするTOKYO WATER TAXIや、江戸の頃にあった食べ物を売る「うろうろ船」なども走り、普段よりもにぎやかな隅田川の風景が出現していました。
続いてご紹介するのは、テラスプログラム。隅田川テラスは、船着場や隅田川を臨むことのできる客席エリアがぬくもりのある木材で演出され、この日イベントに訪れた人々が、飲み物や食べ物を片手に時間を過ごすことのできる、憩いの場になっていました。
天候の関係で、5つのテラスプログラムのうち「DJ NEWLD」と寺尾紗穂の弾き語りによる「コンサート」は、区庁舎内のすみだリバーサイドホールに場所を変えて行われましたが、2つの「テラス車座トーク」とフィナーレを飾った「影絵パフォーマンス」は、この開放的で気持ちのよい空間で行われました。
テラス車座トークのテーマはそれぞれ、「『下町義理人情』とはなにか?」「隅田川を美しくするには?」。すみだのまちに暮らし、場づくり、まちづくり、雨水活用、再生燃料などさまざまな分野で活動する出演者が、それそれの活動やテーマに対する思いを語り合い、集った人々とその時間を共有していました。
そして日暮れの後に行われたのが、インドネシアで影絵を学んだアーティスト、川村亘平斎による影絵と音楽のパフォーマンス。ユーモアのあるMCを交えながら、独自の現代的なセンスで、光と影による美しい画面を次々とスクリーンへ描き出します。隅田川と対岸の夜景を借景とするパフォーマンスのひと時。集まった人々が、その風景を共にじっくりと味わう機会となりました。
レポーター:橋本 誠(はしもと まこと)
1981年東京生まれ。アートプロデューサー。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(現・アーツカウンシル東京)のプログラムオフィサーとしてアートプロジェクト「墨東まち見世」などに関わる。2014年に一般社団法人ノマドプロダクションを立ち上げ、現代社会と芸術文化をつなぐ多彩なプロジェクトの企画・運営・ツール制作・メディア運営などを手がけています。http://nomadpro.jp/