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活動をアップデートし続ける「もんてん」と「アップデートアーキテクツ」【2018年度・すみゆめ参加団体クロストーク】

企画名2018年度・すみゆめ参加団体クロストーク
団体名:「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会
開催日:2019年01月24日(木)

「隅田川 森羅万象 墨に夢」通称すみゆめの2018年までの活動を振り返るため、参加団体のみなさんにインタビューするシリーズ企画をお届けします。第1弾はこれまで墨田区で、さまざまなかたちでアートプロジェクトを行ってきたおふたりから「なぜすみゆめに参加しようと思ったのか」「どのように企画が生まれたのか」などのお話をうかがいました。

 

<プロフィール>
北川貴好さん(アップデートアーキテクツ)
美術作家。1974年大阪府生まれ。1999年武蔵野美術大学建築学科卒業。環境や建物自体に手を加え空間そのものを新しい風景へと変換させていく作品を制作している。
アップデート・アーキテクツではアートの柔軟性で公共建築の空間をアップデートすることに取り組んでいる。
北川貴好http://www.takayoshikitagawa.com/
アップデート・アーキテクツhttps://update-arch.weebly.com/

黒崎八重子さん(一般社団法人もんてん代表理事・両国門天ホール支配人)
東京建設自労会館の竣工にあたり、オーナーの要請を受け1989年門仲天井ホール支配人となり、ホール運営・管理・企画を担当。20139月、門仲天井ホールの閉館に伴い、法人を設立して両国にホールを移転、両国門天ホールを開館させる。
2017年度のすみ夢参加にあたり、墨田区南部のアート拠点として墨田区全体をつなぐ拠点の一つになれないだろうかと考え、構想したのが「両国橋アートセンター」。
両国門天ホールhttp://www.monten.jp/

 

 

公共建築を使い倒す

アップデートアーキテクツの北川貴好さんが会場として使ったのは、すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)に併設されているドーム。
6年前(2013年3月)までプラネタリウムとして活用されていた空間を利用して、ドームに現れる巨人とともに、体操やヨガ、茶会をするというイベントを開催しました。

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(写真:「巨人と体操」の様子)

 

 

北川貴好(以下 北川): プラネタリウムとしての機能がなくなって貸しホールになっているけど、あまり使い手がいないんですよね。すみゆめっていう機会があるんだったら、活用されていないドームで遊びたい。僕、家が近いので。そう考えているなかで巨人っていうテーマが出てきて 。

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(写真:北川貴好さん)

 

 

北川:これまで建築をどう使うかを考えて作品をつくってきて、今回はドーム。公共建築をクリエイティブに使い倒すために、アップデートアーキテクツを立ち上げて。周りに声をかけたりして、コラボレーションする人を募ったんですよね。

たとえば飯田将茂さんは、広視野な投影ができるドームでコンテンポラリーダンスの映像を映すことで、新しい身体表現ができないかっていうのを探求していたり。後藤大輝さんは茶室っていうものを結びつけたり。最初の年(2017年)はみんなで集まって実験をして、いい意味で、まだ作品にはなっていないような状況でした。

 

それで2018年は、一番ドームの特徴も出て面白かった「巨人」をテーマに作品にしようと。ちょうどドームの映像祭(国際科学映像祭ドームフェスタ))っていうのも世の中にはあると知って、それに出してみようっていうことも意識しました。国内ではここしかないので、次は海外の映画祭に応募しようと思っています。

同時に、映像をただ流して観客席に座って観るっていうフォーマットも崩したいなと思って。それで「巨人と体操」みたいな企画も出てきたんです。子どももおじいちゃんも参加できるし、映像と場所の一体感もあります。公共空間で巨人と体操したりヨガをしたりするのがアート作品なのかと言われると、そうではないと思うんですけどね。普段はアート作品をつくっている人たちが、アートであるかどうかにはいい意味でこだわらず、それぞれの視点でコンテンツをつくって、建築の使い方をアップデートするっていう感じです。

黒崎八重子(以下 黒崎): アップデートっていいわよね。名前が気に入ったもん。私はね、ストリートをアップデートするっていうことをすごく考えちゃうわけ。そこで、両国門天ホールが取り組んでいるのが「ストリートピアノ」企画。
ストリートピアノはイギリスから全世界へと広がって、日本でも各地で行われるようになったのだけれど、門天ではストリートピアノを実施するということを超えて、ストリートピアノが充実していく、ストリートピアノの豊かさってなんなんだろうってことをね。

 

音楽とまちに出ていく

 

6年ほど前から両国橋のすぐそばで「両国門天ホール」というスペースの運営をする黒崎さん。普段は音楽の演奏会やトークイベントなどを開催しています。

すみゆめの期間中には、「両国橋アートセンター」と銘打って近隣のアート情報を集めたインフォメーションセンターを開設したり、子どもが楽しめるワークショップなどを企画したり。さらに隅田川の親水テラスにピアノを持ち出して、誰でも弾ける「ストリートピアノ」を開催してきました。

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(写真:黒崎八重子さん)

 

黒崎: 最初は「見えない世界を見る〜瞽女の魅力と広瀬浩二郎の世界〜」という活動で、すみゆめに参加しました。ほかのすみゆめ参加活動を見たときに、墨田のまちの魅力を活かしたものが多くて、門天ホールとして、地域資源を活かしきれていないという思いがよぎって、どういう参加の仕方ができるか、どういう役割があるかなっていうことを考えたんです。

自分のなかで、墨田の北側、向島の辺りってすごく尊敬する場所なんですよ。人との密度の濃い関係があって、いろんな活動をしている人がいて、発表する場があって。向島っていうアートのブランドができている感じがするのね。だけれども南のほうにはない感じがするんですよね。もちろん歴史はあるし、国技館とか大きなものはあるんだけれども。もっと小さなアートプロジェクトというか、活動が盛り上がっていないかなって思うのよ。



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(写真:両国アートフェスティバルより)

 

黒崎:門天ホールはどうしたって小さいし、音楽っていうのは物理的に閉じられていて。やっぱり音が外にもれないようにとか、開かれていくっていうのはなかなか難しいんだよね。両国橋の下の隅田川テラスっていう開かれた空間で音楽をやる。そうやって少しずつ外に出ていくことで、南側が盛り上がらないかなっていう想いがあって「ストリートピアノすみだ川」を始めたのね。初めてストリートピアノを実施するにあたって北川さんにつくってもらったピアノがまたいいのよ。

北川: つくりましたね。ピアノの一部を透明なアクリル板に改造して、中が見えるようにしたやつ。



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(写真:ストリートピアノすみだ川 2017年度の様子)

 

 

黒崎: 2017年はピアノを1台置いて、そこにいろんな人が来て、コミュニティができて。すごくよかったんだよね。次にそれを発展させるにはどうしたらいいんだろう、じゃあ2台にしようって、単純に増やそうとしたんです。結局台風が来てできなかったんですけど。でも2台でやろうとしたことで、改めて課題が出てきちゃったのよね。

たとえばもんてんが目指したのは、ただピアノを置いて自由に弾いていいですよっていうんじゃなくて。積極的に弾きたい人だけではなくて、弾こうかなどうしようかなって迷っている人にも関わってほしいと思って。そこで、演奏サポーターという役割のアーティストを置いたのね。演奏したくて集まった人の他にも、通りかかったランニング中の人や犬の散歩途中の人とか、いろんな立場の人、いろんなモチペーションの人に、演奏サポーターが声をかけて、演奏に慣れていない人にはアーティストが一緒に連弾や合奏をする形で加わってもらえるよう場作りをしたのね。指いっぽんでも演奏に参加できるような場を作ったのね。そういった中で、演奏サポーターの場作りに触発されて見ず知らずの参加者同士がコラボレーションする場も立ち上がっていくわけ。そういう密な、人との関係があの一瞬の中で出てきたりするのよね。そういうことを大切にしようって思ったときに、2台になっても大丈夫なんだろうかって。演奏サポートとか警備体制の問題が出てきたんです。

あとはピアノを運ぶことについて。私のなかではあのピアノを神輿のように、みんなで運んで、そこに通る人も加わったりしてコミュニティができていくというのが自分の理想だったんだけど。今年、みんなで運ぶことを反対されたのね。素人が運ぶっていうのは危険が伴うんじゃないかって。でも、運送屋さんに頼むとなると、時間を決めて何時に来てくださいって言わないといけない。だけど、たとえば雨が降ったらピアノをちょっとしまって、晴れ間が出たら外に持っていくっていう自由度がまったくきかないことになっちゃったわけ。

私はピアノを運ぶところからコミュニティがつくられていく感じがしていたんだけど、専門業者さんに頼むとそれが難しい。だからストリートピアノにすごく理解のある近所の運送屋さんとか、一緒に運ぶことができる人を仲間にしないと、自由にピアノを運ぶっていうことができないんだなって思ったのね。

北川: 僕だったらできる人を集めて、練習をしますね。いきなりやるんじゃなくて。

黒崎: 練習。いいね。

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北川: 倒れたらどうなるんだとか、トラブルも想定して練習する。彫刻をやってる人とか美術系で重たいものを持っている人とか。ふだん本物の神輿担いでる人とか。運ぶこと自体がパフォーマンスになったらいいじゃないですか。演奏しながら運ぶとかできるかもしれないし。

黒崎: ふふふ、ほんと、面白いよね。そこを一緒にやりましょうよ。次は2台をやめて、1台をいかに進化させていくか。バージョンアップさせて豊かなものにしたいと思っているの。そこで音楽が立ち上がっていったり、コミュニティができたりすることをしたい。量じゃなくて質っていうのかな。

 

 

活動をアップデートし続ける

北川: ドームには思っていたより子どもが来てくれて。最初のころは子どもが泣いちゃうっていう問題があって。最初に巨人がぐっと覗き込んでくるから怖いんだよね。

 

スタッフに幼稚園で働いていた人がいて、そういう問題も徐々にクリアできました。先に「大きな巨人が出てきてびっくりするかもしれないけど、大丈夫ですよ」って伝えるとか、位置を工夫するとか。そういうことでコンテンツを変えなくても楽しんでもらえるようになって。

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(写真:「巨人とヨガ」の様子)

 

 

黒崎: なにかあったときに、子どもたちのケアをするスタッフが必要なんだなっていうのはある。たとえば2018年は小・中学生対象にコマ科学実験教室という企画をやったのね。その中で、コマ対戦もあって、それををやったら、今の小学校って勝ち負けがつかないように配慮して活動をしてるのかな、子どもが負ける経験をしたことがあまりないのか、負けると悔しくて泣くんですよね。

学校ではできないようなこと、勝ち負けとかさ。そういう体験ができるっていうのは、すごくやってよかったなって思ったんだよね。ふだん体験できないようなことができる場所、それが地域の魅力にもならないかなって思うわけ。

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北川: 巨人と体操して楽しいとか、いろんな発想に触れ合うのはすごく重要ではあると思うんです。だけどね、なんかこう、断片的なんですよ。

黒崎: 断片的っていうのは。

北川: ドームって単発でイベントをする特別な場所で、終わったら戻っていくっていう残念な感じがある気がして。空き家とか身近な場所だったら、日常的にコミュニケーションもできるんだけど。公共空間を使うっていう意味でも、持続的にしていきたいっていうのは、アップデートアーキテクツの願望ではあります。

持続的にやっていくとなると、すみゆめの枠の中だけではできなくなってくるから。併設している生涯学習センターとなにかできないのかなって考えてみたり。すみゆめの支援をずっともらえるかもわからないわけだし。僕が採択されなくても、ほかの人がワーワーやってくれたら、それはそれで楽しいなって思うけどね。

黒崎: 継続するためには、やっぱりいろいろ考えないといけないんだよね。アップデートし続けることが必要だなって。

 

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(写真:もんてんおはなし会より)

 

 

北川: なにに使っていいかわからないドームっていう名前の場所のイメージをアップデートできたら、いろんな問題が解決するんじゃないかって思ってるんですよね。ほかの公共建築にも応用できることがあるんじゃないかなって。

黒崎: ストリートピアノもそこら中にあるわけじゃない。でも置きっぱなしのものが多いのかな。そこでなにかが起きないとつまらないので、ストリートピアノすみだ川じゃないとできないコンセプトというか、独自の仕掛けがあるといいなと思ってるのよ。今は昼だけだけど、夜バージョンがあり得るのかって考えてみたり。

あとはさっき話した運び方ね、私にとってピアノは御神体なので。楽器なんだからそんな危ないことはだめよって、言われればそうなんだけど。でもやっぱりストリートピアノをもうひと捻り、ふた捻りしたいから。運ぶっていうことでもなんかできるよね。北川さん一緒にやろうよ。もうなんか、ワクワクしてきちゃった。

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ふたりの対談はここまで。

これまでの活動を通して、それぞれにまちの拠点や個人・団体とつながりのある二人。すみゆめをきっかけに新たに始まったプロジェクトの先に、まちの人々が表現活動によってさらに生き生きとつながる豊かなさまを想い描いているようです。動き出すことによって見えてきた課題を足がかりに、まだまだアップデートは続いていきます。

最後は一緒にプロジェクトを動かす話で盛り上がりました。次にどんなことが起きるのか、楽しみです。

 

構成:中嶋希実
編集:橋本誠(ノマドプロダクション)
2019年1月24日事務局(公益財団法人墨田区文化振興財団 内)にて収録

 

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