猫も杓子も、狂喜乱舞の盆踊行列【2019年イベントレポート】
「よい、よい、よいとさのシャン、シャン、シャン」
昭和52年に生まれたという「すみだ音頭」が響く小学校の体育館。赤や緑、紫色の照明が光るなか、浴衣を着た70代のお母さん、うちわを握りしめた子どもたち、カラフルな衣装をまとった若者たちが混ざり合い、4時間ものあいだ踊り続けました。
今年もはじまった「隅田川 森羅万象 墨に夢(すみゆめ)」。その交流プログラムとして、すみゆめ踊行列「さくらばし輪をどり」が9月22日(日)に開催されました。
日曜の夕方、雨の予報を受けて急遽会場となった小梅小学校にだんだんと人が集まってきます。屋台の出ているスペースを抜け2階に上がると、ステージにはずらりと並ぶ楽器とDJセット。体育館の真ん中にはヤグラ代わりのお立ち台が用意されていて、その周りでは50名ほどの人たちが「炭坑節」を踊っています。
イメージしていた「盆踊り」と明らかに違うのは、流れているのがキューバのラテンな音楽だということ。
その後も、にゃんとこ+モノガタリ宇宙の会+DONUTS DISCO DELUXE(ANI from スチャダラパー / ロボ宙 / AFRA)による生演奏、そしてラップに合わせて踊る「江州音頭」、台湾の音楽に合わせて踊る「八木節」など、普段の盆踊りでは聞き慣れない音楽が続きます。
ヤグラを囲むみなさんは、普段よりちょっと早いテンポに戸惑う様子もなく、ふだんの盆踊りのステップを踏んでいます。
中には盆踊りのベテランと思わしき着物を来ているみなさんの姿も。民謡以外の曲で踊る盆踊り、いかがですか。
「手順がわかってれば、音が変わってもだいたい数が決まってるから。あとはテンポを合わせればいいわけ
よ。」
「盆踊りは自由にできるでしょう、だって相手がいないからさ。同じ音頭でも、地域によって振り付けが違ったりするのよ。周りの人にぶつかんなきゃ、自分で好きに変えていいの。」
そんな話をしていると、原宿からやってきたというケケノコ族が壇上へ。
「みぎ、ひだり、くるくる回って、ひじを掻く!…最後は決めポーズ、キマったー!」
「シャングリラ」「YMCA」などテンポのいい曲に合わせて、これって盆踊り?と思うような振り付けが続きます。ちょっと不思議な光景ではありますが、子どもからベテランまで、壇上の見本を見ながら楽しそうに、そして真剣に踊っているのが印象的。
タイムテーブルに「メガ盆」と題された時間には、DJブースに岸野雄一さんが登場。サザエさんのテーマソングや往年のヒット曲など、誰もが聞いたことのある曲に合わせて盆踊り。
最初は体育館の端でゲームをしていた子どもたちも、いつのまにかステージに向かい飛び跳ねています。
「普段、近所の盆踊りには行かないんです。だけどこういう、新しい盆踊りみたいなのには最近通ってて。盆踊らー(ぼんおどらー)1年目なんです」
そう話してくれたのは、頭にはちまきを巻いた女性2人組。
「ふらっと来ても何周かしたら踊れるようになるし、適度な運動にもなって楽しんです。知ってる音楽があったりして、誰でも入りやすいですよね。これ、海外に広まったら戦争起きなくなるんじゃないかな。ほんとに楽しい、うん、楽しいです。」
ステージでは和太鼓、ちんどんなどの生演奏がスタート。柳家小春さん、山田参助さん、さとうじゅんこさんなど豪華な歌い手が代わるがわる、民謡を歌い上げていきます。
会場の踊りに合わせて歌に緩急がつき、さらに空気が盛り上がっていくのが生演奏ならでは。演奏付きの盆踊り、病みつきになりそうです。
最後に登場したのは珍盤亭娯楽師匠。ヤグラも気にせず自由な場所で踊る、DJタイムのスタートです。北島三郎の「まつり」など日本の音楽に合わせ、あちらこちらで自由に踊る。
壁は踊る人たちの影が映し出され、床からズンズンと振動が伝わってくる。これは盆踊り?クラブ?ライブハウス?そんなことはもうどうでもよくなって、それぞれに踊り狂う時間が過ぎていきました。
4時間に渡って繰り広げられた、古くて新しい盆踊りの時間。
イベントの最後に、全体をプロデュースした岸野雄一さんに話を伺いました。
「僕ここが地元なんで、ほんとに感無量ですね。盆踊りに若い人があんまり来なくなってましたから。伝統を次の世代に受け継ぐために新しい音楽を入れたり、音楽をもっと楽しめるように新しい血を入れてみたんです。これで、盆踊りっておもしろいよっていうのが若い人たちに伝わったといいな。来年もやりたいなぁ。」
小さな子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、伝統と新しいものがごちゃまぜになった夜。今までになかった視点での音楽の楽しみ方、踊り方、そして人の集い方を垣間見たような気がします。
さまざまな人の想いや感情、そして技によって、全国各地で続く盆踊り。私も来年は地元で続く盆踊りにも参加してみよう。そう思いながら、散り散りになっていく人たちとともに帰路につきました。
イベントページ:2019.09.22 すみゆめ踊行列「さくらばし輪をどり」
中嶋希実(なかじま きみ)
1985年生まれ、茨城・取手育ち、龍ケ崎在住。川沿い畑付きの家で暮らしながら、東京と茨城と出張先あたりにいます。話を聞いたり、書いたり、動かしたりしながらいくつかのプロジェクトに関わっています。ときどきチャイ屋「きみちゃい」をひらきます。