子供から大人まで、江戸文化を満喫できる街の文化祭【2019年イベントレポート】
「隅田川 森羅万象 墨に夢」プロジェクトの一環として、NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会(略称:てらたま)が主催する『江戸に浸かる。〜咲く・跳ねる・感じる〜笑みに夢』が、9月28日(土)と29日(日)に旧向島中学校で開催されました。
6年前に廃校になった旧向島中学校の校庭や体育館が会場となる本イベントは、江戸の食や文化を体験できる下町の祭典として2016年よりスタート。
天ぷら、寿司、蕎麦など江戸をイメージしたメニューが並ぶ屋台から、盆踊りに和太鼓の演奏会、 影絵
ショー、芸妓さんのお座敷遊びまで。子どもから大人まで楽しめる内容になっています。
「地元住民や児童館、福祉関係の団体、地元中学の教員や生徒たちが集まって、ひとつのイベントを作っているというのが最大の特徴」と語るのは、NPO法人寺島・玉ノ井まちづくり協議会事務局長の牛久光次さん。毎年テーマが変わるイベントの副題について、「今年は、これまで自分たちが取り組んできた日頃の活動や努力をこの場で咲かせて、みんなで笑い合おう」という意味を込めたとのこと。
爽やかな秋晴れに恵まれた初日には、江戸野菜をバトンに見立てて、墨田区・荒川区・台東区を走る「青果リレー」が行われました。東京周辺でかつて伝統的に生産されていた寺島なす、谷中しょうが、江戸千住ねぎの野菜バトンを持ったランナー達が、全30区画、13㎞の道のりをタスキでつなぎます。
今年で3回目の開催となる青果リレーは、「江戸野菜の復活を目的にはじめたものですが、街の商店街や福祉施設などを回ることで、地域がつながるイベントになっている」と牛久さん。当日は台東区の少年野球チー ム、荒川区の少年サッカーチームが応援に加わりました。
寺島なすのバトンを持ってゴールしたのは、すみだサンビスタ代表の青山杏里さん。華麗な衣装をまとって、情熱的なサンバを仲間たちと共に披露。日本髪に着物姿でサンバを踊る姿は、来場者の注目を集めていまし た。
校庭では、「江戸に浸かる盆踊り」発表会も開催。墨田区立桜堤中学校の和太鼓部の演奏に合わせて、東京の土地にちなんだ盆踊りを披露しました。寺島なすの復活プロジェクトから生まれたキャラクターをモチーフに作曲した「寺島茄子之介音頭」を踊る一幕も。
屋台コーナーは、校庭の中央に設置された両替所で、現金を江戸の通貨『文』に換金して楽しめるシステムになっています。
「蕎麦屋 勇吉」では、サラリーマンの桜井勇三さんが、趣味で続けている自慢の手打ちそばを提供。その隣では、東向島にある弁当屋を夫婦で営む「魚八栄五郎」さんが、天ぷらや豚汁を販売。蕎麦の上に天ぷらをのせて食べるお客さんが各所で見られました。
魚八栄五郎の店主・佐々木直子さんは、「このイベントは、子どもも大人も、自分がやりたいと思っていることを表現できる場所。『下町っていいね』と言ってもらえる象徴になればうれしい」と語ります。佐々木さんは、夜に行われた影絵ショー「ほくさい物語」にて、影絵人形の声あても担当しています。
東向島の酒屋「岩田屋酒店」の屋台では、居酒屋「養老乃瀧 東向島店」の女将さん特製の、寺島なすの皮で作ったきんぴらや、白ワインで煮たコンポートなどのおつまみも売られていました。
「岩田屋酒店」の主人・岩田謙一さんは、屋台村の空間づくりについて、「外から見て、一目で『楽しそうだな』と思えるスペース作りを心がけた。今年から入場無料なので間口も広がったと思う。ベンチの数も増やして、気軽に人と人がつながれる場所を用意した」と、こだわりを明かします。
近所のタワーマンションに住む子連れの夫婦は、「たまたま近くを通りかかったら、にぎやかで楽しそうだったので立ち寄った。まさか廃校でお祭りが開かれているとは思わなかった」と笑顔を見せつつ、ヨーヨー釣りやスポーツ鬼ごっこなどのイベントを満喫していました。
大学4年生の大井麻衣さんは、食と地域活性化の関係について学ぶ中で、寺島なすで町おこしをしている本イベントに興味を抱き、てらたまのスタッフとして参加。「子どもたちが、年齢性別を問わず地域の方と交流できるのが良い。今後は、保護者以外の大人にも積極的に来てもらえるイベントになってほしい」とコメント。
会場の装飾の一部は桜堤中学校の美術部が担当し、ほかにもボランティア部や和太鼓部の生徒たちが各催しで活躍していました。「イベントに参加することで、墨田区から本物のアーティストを生み出すきっかけになればうれしい」と牛久さん。イベントは和気あいあいとした雰囲気に包まれ、子どもからお年寄りまで、さまざまな世代が分け隔てなく交流している姿が印象的でした。
体育館では、吹き矢体験や竹あかりつくりなどのワークショップが開催。江戸時代に隅田川界隈で生まれた紙のおもちゃ“ずぼんぼ”遊び体験のコーナーでは、スタッフや参加者たちの声援が響く中、トーナメント大会が行われました。動物の形をした“ずぼんぼ”をうちわで扇ぎ、制限時間1分でどちらが長く高く飛んだかを競います。兄弟同士や、親子で参加する方も見られました。
東向島でかえる雑貨や絵本を販売している「かえるのトンネル」店主の田村風來門(たむらかぜらいもん)さんによる紙芝居制作ワークショップでは、忍者が走る絵を参加者に描いてもらい、夕方の紙芝居発表会でお披露目されました。
一般社団法人 日本リ・ファッション協会によるレンタル着物の着付けコーナーでは、江戸の町人に扮するファッションをテーマに、草木染めの浴衣を用意。隣のブースでは、オーガニックコットンを使った綿繰りや、糸つむぎの体験会も催されました。
日が暮れると、屋台の提灯にあかりがともり、会場は夜の縁日のような雰囲気に。途中、墨田区長の山本亨氏が登壇し、「墨田区のいいところを子どもたちに継承していくためにも、大人たちが頑張っていきましょう」とエールを送る場面も。校庭のステージでは、忍者ショーやギター、ウクレレの演奏会が会場を盛り上げました。
自作の切り絵を展示する「切り絵細工 高橋」の店主高橋昇さんは、江戸時代の虫売りに扮して、子どもたちに江戸の風習について語り歩いていました。
18時からは、てらたま影絵部による「ほくさい物語」と題した影絵ショーがスタート。江戸時代を代表する浮世絵師・葛飾北斎の生涯を、映像や音楽を交えながら影絵人形が語ります。影絵師SAKURAさんの監督のも と、人形つかいには桜堤中学校の生徒たちも参加しました。
影絵ショーの後には、向島芸者のなつきさんが艶やかな舞を披露。お座敷遊び「金比羅船々」では、海外の女性も参加し、お土産に芸妓さんの千社札(名刺)を渡されると、うれしそうな笑顔を見せていました。
2日目の29日(日)には、墨田区立寺島中学校の落語研究部による高座や、墨田区内の小中学校や福祉施設などのワークショップを通して生まれたアニメーション『アニメで墨田!』の上映会が行われました。
参加型の企画が多いことで、来場者同士のコミュニケーションも生まれやすく、各ブースや飲食エリアで、子どもたちやお年寄りの笑顔が見られました。誰もが楽しめる街の文化祭として、これからも続いてほしいイベントです。
レポーター:田中未来(たなかみき)
美術館めぐりと田舎旅が趣味のフリーランスライター。都内の展覧会レポートを中心に、街歩きやアートに関する記事を執筆。