個性的なオリジナル屋台たちが隅田公園に集う「屋台キャラバン」【2020年イベントレポート】
オルガンを乗せた屋台で鍵盤を弾きながら、DJを乗せた屋台が音楽を響かせながら、隅田川沿いの公園内を練り歩きます。個性的な屋台が5台も集結して、さながらキャラバンのよう。ふらっと公園に来た方々も新しいコミュニケーションの場を楽しんでいました。
会場は、関東大震災の帝都復興事業の一環で整備されれた隅田公園。桜の名所であり隅田川花火大会の見物場所としても知られ、水戸徳川家の遺構を利用した日本庭園があります。そして今年の春には隅田公園南側の再整備工事が完了したばかり。
この「屋台キャラバン」は、自作の屋台を使った交流の場です。ユニークな屋台が公園に出動してパフォーマンスを繰り広げます。みんなで楽しめるパフォーマンスを披露したり、ワークショップを開催したり、自由に触ったり演奏してみたり、コミュニケーションが生まれる体験型の屋台です。
「屋台キャラバン」は、10月3日(土)と10月4日(日)の2日間開催。当日、公園にはテントを張る人々や家族連れが集い、のんびりと過ごしながら偶然出会った屋台の催しに参加するなど、日頃とは異なった交流が生まれていました。
公共空間にコミュニケーションのきっかけをつくる屋台が並んだ、このイベント。出店した屋台の方々にコメントを頂きました。
この屋台キャラバンを企画したのは、写真家の高田洋三さん。墨田区京島で「sheepstudio」という写真のスタジオを運営している方です。まずは墨田区在住のアーティストやクリエイターに声をかけて企画を進めたことなどを伺いました。
「屋台キャラバン開催のきっかけは、去年8月に自分が運営する写真スタジオの周りで、「すみだストリートジャズフェスティバルin曳舟」が行われ、そのときに作った屋台の第1号が、このDJ屋台でした。昔からある近所の商店街「キラキラ橘商店街」を練り歩いてDJをするというパフォーマンスを、思いのほかおもしろがってくれる方々がいたので、それをもう少し膨らませたのが今回の屋台キャラバンです。」
「自分としては、何か新しいことをするというより、自然に使える素材と技術を使って、自分たちの手で公共空間を楽しもうとしました。屋台自体が、完成度を高めるよりもプロトタイプというか発展途上の状態でいられることがおもしろさのひとつで、自分たちの持つ技術を総動員して作っていく過程を楽しむことに重点を置いています。元々、僕は大工ではなく、自分の写真スタジオの古い建物を自分でメンテナンスする必要に迫られて、覚えていった技術や周りの人たちから教えられたことで屋台を作りました。なので、これがアートや表現というよりも日常の延長上の中でできたものですね。そういう点では今回集った屋台の方向性は近いと思います。」
「今僕が考えていることは、アーティストや選ばれた人が作る立派な作品よりも、誰でも作れて裾野を広げてく方向に向かっていきたい。今回の「屋台キャラバン」という名前も、オープンソースというか作り方を共有できるようにしていきたいと思っていて。楽しむだけでなく、作るところからも参加できて、もの作りの楽しさを知ってもらえるきっかけに今後なればいいなと。のちのちは新しく屋台を作ったり、台数が増えたり、他の地域へ巡業もできたらいいかな。」
高田さんが制作した屋台は「ガチャガチャ屋台」と「DJ屋台」。「ガチャガチャ屋台」は、屋台に付いている木製のハンドルを回すと歯車が動いて、直径20cmほどの丸いプラスチックボールのカプセルが取り出し口から出てきます。今回のガチャガチャの商品はイベントの手ぬぐい。ハンドルを回してみたい子どもが多く、通りすがりの子ども連れの方々が楽しんでいました。
ガチャガチャ屋台を作ったきっかけを高田さんに伺いました。
「屋台を制作をするにあたって、全体でアイデアを出し合って、そのなかから選んだものを共同制作することを計画していました。みんなでアイデアを出し合い、技術を共有し、制作する方法です。ぼくからも30案くらいアイデアを出しました。いつも個人で制作する写真作品とはまったく違う方法にチャレンジしたかった。」
「ガチャガチャ屋台にしたのは、そのアイデアのなかで、評判がよかったことや、カプセルのなかにいれるグッズ制作で共同制作ができることがありました。直接グッズに触ることがなく購入が可能なのでコロナ対策としてもいいと思いました。」
「DIYの屋台をつくるというコンセプトのもと、からくりからグッズまで、手製でつくり、それが一つの屋台のなかに完結していて、だれでも使ったり、楽しめるのもいいと思いました。共同制作の方法は今回は十分に実現できなかったので、次回はその手法をもっと進展させたいです。」
高田さんがもう一台制作した屋台は、「DJ屋台」。DJセットとスピーカーを搭載したミニマムな移動式DJ専用屋台。DJを乗せて人力で移動しながら音楽を流します。ノリの良い曲が流れると、周囲の方々が盛り上がっていました。
屋台に乗り込んでプレイをしたDJは、DJ Ko-toさん。本業は東京で唯一の屏風専門店「片岡屏風店」の三代目だそうです。参加までの経緯を伺いました。
「去年のすみだストリートジャスフェスティバルで屋台DJに参加させてもらい、高田さんとのご縁ができて今回も誘われました。大学の頃から渋谷や六本木などいろいろな場所でDJをしていて、最近は屏風屋の仕事をしながら、趣味で週末に曳舟のバーなどでDJをしています。もともとヒップホップ系でしたが、現在は雑食でオールジャンルの曲をかけています。今日はファンク中心でイベントに集まる人に曲を合わせていますね。」
オルガンを搭載した屋台が「疾走!オルガン屋台」。オルガンと弾き手を乗せて、屋台の引き手が曳航します。オルガンの音色や形に惹かれて、イベント中はひっきりなしに人が集まり演奏をしていました。
制作した方は、墨田区向島の工務店で働く北條元康さん。
「僕らは他の仲間と共に2004年から自転車部というのを立ち上げて、自転車とさまざまなものを組み合わせていました。僕は、かき氷を作れる自転車や、コーヒーが挽ける自転車を作ったり。当初は食品を題材にしていましたが、楽器を作りたくなって。鍵盤楽器なら汎用性が高く、弾いてくれる人が多いだろうと思いつき、どうにかして自転車と結合させようとしていろいろと試していて、最終的にリアカーとオルガンを組み合わせました。」
「最初はピアノを載せようしましたが、重量が重いのと調律などのコストがかかるのでメンテナンスが大変なんですね。だけど、オルガンは軽くて安くてメンテナンスがフリー。今使っているオルガンは80年前のものらしいんですが、いまだに使えます。今後は弾いた際の動力を使って、自動で演奏ができるところまで改造したいですね。」
自転車牽引型チャイ屋台で、スパイスたっぷりの挽きたてチャイが飲めるという「楽屋のチャイ屋台」。屋台には、店主が選んだ書籍が並び、話題を提供します。
屋台を制作したのは、パフォーマンスや空間演出なども行う、造形作家/チャイ屋の樋口裕一さん。もともと屋台に関しての造詣も深い方でした。
「普段いろいろな活動をしていますが、最近特に屋台を使って場を作る活動が増えています。すみだ水族館で金魚の屋台を常設したり、アートプロジェクトでいろいろな種類のコンセプト屋台を作りました。たとえば、雨水利用を促進するための屋台。子どもたちが屋台を体験したら雨水の利用についての一通りの流れを遊びながら学べるものとか。その中でこのチャイ屋台は定期的に発表しているものですね」
「福島の田舎の方に住んでいた時に、地元のおじさんたちにチャイを出していたんですよ。農作業の合間にお茶を出す「お茶飲みニケーション」みたいな。そこからイベントに出店するようなって、大きなフェスから小さな地元のイベントまで。最近はいろいろな人に屋台の店主になってもらう屋台のプロデュースをしています。1日だけ店主になりたい人が来た人にお茶を振舞ってもらって、飲んでいる間はその人の共有したいことを緩く話すという、移動式の井戸端屋台です。」
「屋台を出す機会が増えているのは、リアル空間でのコミュニケーションを求めている人がいるから。それはたぶん舞台芸術などに惹かれる体験に近いと思います。こうやって路上で何気なく隣り合った人と繋がりができたりすることは、普段関わらない人と関われるというダイナミックさがあって、予期せぬ出会いが醍醐味かなと思いますね。」
最後に紹介するのが、豊島区からやってきた屋台「出没!!不健康屋台 健康が足りなさ荘」。
体験できるのは、一風変わった健康診断のワークショップ。屋台には「あなたの不健康自慢、教えてください」と書かれた看板が掲げられ、コミュニティブースによる健康相談ができます。健康相談する前に、まずは自分の悩みを紙に書いて、丸めて投げて、悩みを告白してから、相談が始まります。参加者は思いもよらない方法での不健康自慢に笑いがこぼれていました。
この屋台を運営するのは、かみいけ⽊賃⽂化ネットワーク+モクチンズ。「足りないものはまちを使う」をモットーに豊島区上池袋で活動しているモクチンズは、木賃拠点・山田荘や、シェアアトリエ・くすのき荘に参加する人たちです。かみいけ木賃文化ネットワークを主宰する山本直さんにお話を伺いました。
「足りなさ荘を持ってきてよと、オルガン屋台の北條さんにお誘いいただいて。ただ、僕らは屋台持っていてもコンテンツがないので仲間に声を掛けて、看護師のガースケくんが健康相談をやりたいという話になりました。」
「僕らがハードで、彼がソフトという役割でスタートして、ただ健康相談だけでは参加者が少ないと思い、ついついやっちゃう不健康の自慢を披露して貰う形にしました。飲みすぎちゃった、ビックマック食べ過ぎちゃった、とんかつにマヨネーズをかけちゃったみたいな、笑いにつながる不健康自慢をきっかけに、自分の健康や普段の生活習慣を振り返ってもらって、少しでも参加しやすいようにしました。」
「北池袋から来ましたが、自転車と連結して走っていた時間は1時間20分間ぐらいかな。みんなで3、4人ぐらいがコアメンバーでいろいろ作って、完成しきらないところは公園にきてから子どもたちと屋根を作ったり。ずっと未完成な感じの屋台です。」
ユニークな屋台たちが、リニューアルオープンした隅田公園にとけこみ、2日間だけのコミュニケーションとにぎわいの場を作っていました。これからも屋台を公共空間や路上に反応して、自らの手で屋台を作り、皆で遊ぶシーンが増えていくと、その場所に反応したやってみたいことが見つかったり、まちの魅力を引きだすことにつながっていくかもしれません。
屋台キャラバン ドキュメント映像(YouTube)
髙岡謙太郎(たかおかけんたろう)
オンラインや雑誌で音楽、アート、カルチャー関連の記事を執筆。共編著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』『ピクセル百景』など。