レポート

日常と異なる目線で墨田のまちを見つめ直す「泥深い川」

2020.12.19~20日.. | レポート

企画名泥深い川
  • 団体名 : 一般社団法人Token
  • 開催日 : 2020年12月19日 (土) ~20日(日)
  • 会場 : すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)(墨田区東向島2-38-7)、Token Art Center(墨田区東向島3-31-14)、icou(墨田区向島5-48-4)、北條工務店となり(墨田区東向島3-22-10)

「泥深い川」は、墨田区・曳舟で気鋭のアーティストを紹介しているToken Art Center(トークンアートセンター)が企画した、曳舟、押上のまちを巡りながら鑑賞する展覧会です。国内外で活躍する4名のアーティストが、現地での制作やリサーチを経て作品を発表しました。

本展覧会は、作家の選出から展示の構成までを、Token Art Centerの高村瑞世さんが企画しました。企画のコンセプトについて、「私が運営しているToken Art Centerが隅田川に近い場所に位置していることや、すみだで実施するということから、隅田川に着想を得て企画しました。荒川はたびたび氾濫する隅田川を補完する目的で築造された人工河川であり、この川の成り立ちには自然現象だけでなく、人々の生活、また政治的な事象が複雑に影響しています。このように昔からあった隅田川と近代に築造された人工河川である荒川との関係性などを本展の起点にしています。また、すみだの歪曲した道路や街の区画も河川と同様にざまざまな関係性の上に成り立っているように思います。今回は、河川や道路などをあらゆる経過を経て生まれた線として捉え、それらとアーティストが描き出す線や作品を交差させることで、互いが響き合うよう試みるとともに、鑑賞者が複数の会場を歪曲した道を辿りながら鑑賞する経験も考慮に入れ設計しました。」と話します。

撮影:川瀬一絵

(松永直「Panta Rhei to Curtis LeMay」展示風景)撮影:川瀬一絵

2階建ての木造建築を改装したToken Art Centerでは、松永直さんが「Panta Rhei to Curtis LeMay」と題して、一連の絵画と彫刻作品を展示。在住するロンドンや、本展会期前の滞在先であった静岡で制作した新作を発表しました。展示タイトルには、東京大空襲を指揮した軍人、カーチス・ルメイの名が含まれています。空爆を想起させる赤い線が雨のように降り注ぐ隅田川が描かれた絵画や、木の造形がそのまま残る素材を扱い、水紋のように見えるペインティングを施した立体作品が置かれています。すみだの歴史や自然をモティーフとして扱ったそれらの作品からは、自然の造形と人の営為がせめぎ合う様を感じることができます。

赤羽史亮さんは、オルタナティブスペースicou(イコウ)で新作を発表しました。これまで赤羽さんは「個人と社会」あるいは「人間の欲望と社会の不条理」などをテーマに作品を制作してきて、本展においても同様の興味に基づき、油絵を制作しています。本展のメインイメージともなっている会場周辺の地図を下敷きに描いた作品や犬が臓器の中を移動している様子が描かれた作品、キャラクターのような顔が描かれた植物の後ろに大きな指が透けて見える作品が置かれています。
画面に描かれているモティーフには私たちの日常の身近にあるものを扱いながら、それぞれが奇妙な場面に組み込まれており、描かれた愛らしい造形や色彩と作品の不思議さに惹きつけられます。

撮影:川瀬一絵

(赤羽史亮 icouでの展示風景)撮影:川瀬一絵

icouから入り組んだ細い道を通り抜けて、道端の花や印象的な建物の造形に目を奪われながら墨田のまちを歩いて、次の会場を目指します。

柳瀬安里さんは、空き工場のアートスペース「北條工務店となり」で映像作品を展示しました。《線を引く》の映像のなかでは、柳瀬さんがチョークで地面に線を引き続けます。その場所は、デモが行われている国会議事堂前や、生活感が感じられるまち中です。デモに参加している人々、警備にあたる警察官、道ゆく人々に構うことなく、柳瀬さんはひたすらに線を引き続けます。何もない地面に線を引くことによって、あちら側とこちら側が発生し、境界線や意味が生まれていきます。北條工務店となりでは、赤羽さんの水彩や鉛筆で描いた有機的な線描のドローイング作品も展示され、線を引く行為と、画家の描いた線が同じ空間に共存していました。

撮影:川瀬一絵

(北條工務店での展示風景)撮影:川瀬一絵

伊阪柊さんは、すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)1階ギャラリーにて、3DCGで制作した新作の映像作品や、まちの区画と周辺の磁場の関係性をテーマにして2018年に制作した《The Sprout》、岩に付けられたアンテナで展示会場周辺の電磁波を読み取りその影響を受けて映像がリアルタイムでレンダリングされていく映像インスタレーション作品を展示しました。伊阪さんは展示について、「今回はコロナの影響で実地的な調査が思うようにできませんでした。その反面大量の情報にアクセスする機会となり、それらをどう経験に置き換えられるのかを試すための一種のメディアを作ることに挑戦しました。また、地域に根付く建築物や、この地域の景観や区画の変化の端緒に触れられたことはとても良い経験でした。」と振り返ります。

撮影:川瀬一絵

(伊阪柊 ユートリヤでの展示)撮影:川瀬一絵

撮影:川瀬一絵

(伊阪柊 ユートリヤでの展示風景)撮影:川瀬一絵

泉太郎さんは、すみだ生涯学習センターのなかにある、かつてプラネタリウムとして使用されていたドームで作品を発表しました。半円球のかたちをした会場には左右に入口があり、外から中にぐるりと円を描くように、黄色いコードが繋がっています。そのコードの間にはパソコンが置かれた白い箱がつなげられており、パソコンひとつにつき1人の人が座っていました。彼らは一定の時間が経つと荷物を持って立ち上がり、左回りに動き出します。次の場所に移動すると、各々が黄色いコードの動きを壁にかかっているキャンバスに多様なかたちで記録します。ひとつの電源から供給された同じ電気を使い、コードを介してひとつながりになりながらも、各々は一定の距離を保ち、会話もせず、ただただ手元のパソコンと向き合って時間を過ごしていました。

撮影:川瀬一絵

(泉太郎作品 パフォーマンスの様子)撮影:川瀬一絵

撮影:川瀬一絵

(泉太郎作品 パフォーマンスの様子)撮影:川瀬一絵

撮影:川瀬一絵

(泉太郎作品 パフォーマンスの様子)撮影:川瀬一絵

高村さんは、「まち中で開催する企画は、そこでしかできない作品、体験を作り出すことができ、とても楽しいです。普段であればギャラリーに足を運ぶことのない近隣の小・中学生が、チラシを手にToken Art Centerに訪れてくれたことも、非常に嬉しい経験でした。」と話しました。

「泥深い川」では、アーティストたちの作品や、企画者の展示に込められたコンセプトを通して、日常と異なる目線で曳舟・墨田のまちを見つめ直すことで、日常の風景に新たな気づきが生まれる機会になりました。

レポーター:小林麻衣子
1982年長野県生まれ、東京都在住。横浜国立大学大学院に在籍し現代美術の研究をしながら、国際展や展覧会の企画・制作を中心に活動している。