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事件はいつ、物語に変わるのか 「コーパル」の幽霊たち+α【2021年イベントレポート】

企画名コーパル
団体名:柳生二千翔
開催日:2021年12月19日(日)~12月26日(日)
会 場:オンライン配信

童歌にある”ロンドン橋落ちた”以外にも落橋事故は結構あることを知った。たまにサイクリングで通る海門橋も大正時代に落ちていたらしい。記憶に鮮明なのは広島新交通システム橋桁落下事故で、阪神淡路大震災の高速道路と共にショッキングな映像を覚えている。お隣韓国では聖水大橋が崩落し、その事故は映画「はちどり」の重要なエピソードとして描かれた。
そんな凄惨な様子は週刊誌に載り、TVに写り、ゲスいバズりをSNS上で眺め、僕らは嫌な顔をしつつも好奇の目は抗えずにいる。この構図は今に始まったものではない。歌舞伎や浮世絵、押絵やかわら版など江戸のメディアはワイドショー的コンテンツを目一杯消費していたわけである。落語もまた然り。

今回拝見したYouTube(※現在は公開終了)は柳生二千翔さんが落語「永代橋」や歌舞伎「八幡祭小望月賑」などの古典作品をコラージュしたという映像作品「コーパル」である。1500人以上が亡くなった江戸時代の永代橋崩落事故をベースに、映像には隅田川に佇む3人の幽霊が現れる。洋服で。脚はある。だが傍らには献花が。
貧乏詩人の武兵衛は財布をスられ、スッた新助は落橋事故に巻き込まれ、落ちた新助を直下の船の上でキャッチした美世は新助と共に流れ流れて離島で暮らそうとする… というのが大筋。3人はワイドショーの再現ビデオのごとく”その瞬間”の現場を語りだす。カメラは武兵衛、新助、美世を単独でしか捉えない、マイクは独白でしか捉えない。3人の声は落橋の瞬間、事後と続き、川岸のマンションに3人が佇むエピローグに導かれる。声が、声によって、声に。   
自らの骸に対面した武兵衛の、「抱かれているのは確かに俺だ。しかし… 抱いているのは一体誰だ?」は、やはり痛快だ。このカタルシスはト書きも登場人物たちの台詞も噺家がすべて構築する落語の醍醐味である。一瞬でメタ化されるトリック(トリップ)は言葉の得意とするものである。
映像の醍醐味はどうだろうか。エピローグでは幽霊3人が寄り合いをしているのだが、声のやりとりは新助と美世2人のイチャつきだけであった。この情報の不均衡が短編全体を覆っていて、絶妙にちぐはぐなファッションとも相まって、クリアでパキッとしたデジタル画像でも不確かな存在を描くことに奏効している。

撮影:三浦雨林

撮影:三浦雨林


タイトルのコーパルとは、琥珀になる前の樹脂の化石である。「ジュラシックパーク」のアレである。掘り返された半熟の存在。流れる現在時を川に見立て、堆積する記憶を土として、異なる時間の層を古典芸能から吸い出した格好となった。

撮影:三浦雨林

撮影:三浦雨林

映画祭をバックグラウンドとする自分は、職業柄いろいろな作品と関連付けしたくなるタチである。誰に頼まれたわけでもないのに、仮想プログラムを考えてみた。声、が風景を曲げるような物語。これらのあとに「コーパル」が流れたらより一層グッとくるのではないかなと。

「コーパル」をみて真っ先に思い出したのはあいちトリエンナーレでもやらせていただいた「グージョネットと風車小屋の魔女」( https://www.youtube.com/watch?v=meITdJdnFAE ) である。2011年。福井琢也作品。ドラクエ的ファンタジックな冒険世界と、心に傷を持つ現代の女性の世界が、ある瞬間に交錯する。画面は女性の世界のみだが、音声は昔のTVの2ヶ国語放送よろしく同時再生され、なおかつ画面と関連してくるという驚異的な脚本。半分死んだような存在として生きている両者だからこその邂逅。
今でも授業などで紹介する実験映画の名作「The girl chewing gum」( https://vimeo.com/120689555 ) 1976年。ジョン・スミス作。ロンドンはハックニーのなんてことのない日常をカメラに収める。オフで聞こえるのは監督の指示。「おじさん、通りを渡って。はい、タバコを吸う!よーし。」「坊やが2人、はい、今から右に渡って!」など、細やかな演出をバンバン出していく… と、いう体だが、実に単純なトリックで、撮影されたショットにあとからそれっぽい台詞をアフレコしているだけなのだ。このネタで12分ばかりひっぱるのだが、まさにじわじわくる。#じわじわくる のオリジンではないかと思ってしまう。
アニメーション表現からは山中澪作の「えんえん」を。( https://www.youtube.com/watch?v=GUxC2phIT2o ) 2015年。螺旋階段を降りる少女のドローイングとシンクロして、何気ないフレーズが階段を下降するごとに繰り返され、その度に分節、音節で千切られ、変形し、意味をも変えていく。えんえんと…

短編映像はますますオンラインを棲家にしているが、リッチな環境で、ウザいメッセージに邪魔されることなく、見知らぬ他人と空間を共有する映画祭、美術展、芸術祭でぜひぜひ体験していただきたい! コロナ禍の確実な収束を祈りつつ。

撮影:ヤマワキタカミツ

撮影:ヤマワキタカミツ

コーパル撮影記録&脚本をまとめたアーカイブ・ムック本公開中(PDFダウンロード)
プロジェクトページ:https://nichikayagyu.tumblr.com/copal

 

澤隆志(さわ・たかし)

1971年生まれ。2000年から2010年までイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務める。現在はフリーランスのキュレーター。パリ日本文化会館、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館、青森県立美術館、長野県立美術館などで協働キュレーション。「Track Top Tokyo」(2016)「めぐりあいJAXA」(2017-)「都市防災ブートキャンプ」(2017-)「浮夜浮輪」(2018) 「リハビリテーション展」(2020) などプロデュース。

 

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