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すみだの子どもがプロとともにつくる舞台:すみだみらいアーティストプロジェクトVol.1『Hawk’s eye -北斎の見た世界-』【2024年度イベントレポート】

企画名すみだみらいアーティストプロジェクトVol.1「Hawk's eye -北斎の見た世界-」
団体名:SPUTNIK
開催日:最終成果発表(公演)
12月20日(金)19:00〜
12月21日(土)11:00〜
12月21日(土)15:00〜

ワークショップ
12月21日(土)13:00〜14:00
会 場:すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)マスターホール

「北斎の心象風景は、コンテンポラリーダンスと相性がいい」
吉﨑裕哉は、そんな大胆なことをあっけらかんと言ってのけた。「すみだみらいアーティストプロジェクト」の公演時に行われたアフタートークでのことである。続けて吉﨑は、次のように説明する。 

「葛飾北斎が花鳥画を描くにあたって、どんなことを考えていたのか、そこに興味を持ちました。北斎が絵を描く動機を探ってみたくて、花や鳥をどのように見て、どう感じていたのか、想像してみました。それを踊りや歌で伝えたのが今回の作品です」

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こうした思いは、本作のタイトルにも現れている。その名は、「Hawk’s eye 北斎の見た世界」。「Hawk’s eye」というアルファベットの綴りだけを見てもピンとこないけれど、声に出して読むと立ちどころにわかる。「Hawk’s eye──すなわち、「北斎」のダジャレに他ならない。ダジャレと呼ぶとミもフタもないと言うのなら、ダブルミーニングと言ったところか。

そして、このタイトルは、単純な言葉遊びにとどまらない。たとえば、冒頭あたりのシーンでは子どもたちが声を揃えて高らかにセリフを言う。 

「鷹の目 この世の 何を見る?」 

また、終盤に近づくと、今度は台詞でこんなフレーズが発せられる。

「決して挫けぬ巌頭の鷹」
「葛飾北斎、鷹の目は いくつになっても光を保ち」

つまり、北斎の視界や視点を鷹の目という見立てでとらえ、本作を貫く基軸のひとつに据えている。「Hawk’s eye」はただのダジャレだと思いきや、実は重要なキーワードなのである。

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話は前後するが、この公演の成り立ちや公演の模様をお伝えしたい。「すみだみらいアーティストプロジェクト」とは、墨田区の未来に向けた芸術文化による人材育成プログラムである。吉﨑裕哉を中心に2024年に始まり、今回が第一回目となる。公募で集まった小学4年生から中学生3年生までの男女15人が、9月から4ヶ月間にわたって、ダンスや歌、演技、楽器演奏など表現活動に取り組んだ。そして、1220日と21日にすみだ生涯学習センター(ユートリヤ)での公演に実を結んだという次第だ。吉﨑は語る。

「子どもたちと週に1回のリハーサルを14回重ねました。普通の公演ですと、たった14回のリハーサルで作品ができるわけありません。でも、今回は実現できました。みらいアーティストたち、すげえなと素直に思いましたよ」

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吉﨑は2012年から6年間ダンスカンパニー「Noism」に所属。このカンパニーは、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館を拠点とする、日本で初めてかつ唯一の公共劇場の専属舞踊団である。地域とつながるカンパニーでの活動は、その後の吉﨑の展開に影響を及ぼす。Noismを離れた後も、彼は浜松や新潟で地域と芸術を結びつける活動を繰り広げているのである。

「墨田区で生まれ育って、新潟から帰ってきたわけですけど、すみだでは何もしていないなと気づいたんです。それがこのプロジェクトを立ち上げたきっかけですね」 

公演で子どもたちは、5人のプロのダンサーや俳優たちと共演。踊ったり歌ったり、トーンチャイムやオーシャンドラム、カホンといった楽器を演奏したり、演じたりした。全員が、ひとり何役ものマルチなパフォーマーぶりを発揮した。シーンごとに多種多様な表現が繰り広げられるものだから、次の展開が気になる気になる。客席には子どもの観客が多くいたが、どの子たちも膝を乗り出して食い入るように舞台を見ていたのが印象深い。

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今回の振付は、吉﨑だけで考案したわけではない。リハーサルでは、たとえば擬音をお題に、さまざまな擬音を一人ひとりに言ってもらい、そしてその擬音を身体で表現してみる、というように進んでいったという。 

「子どもたちのフレッシュなアイデアが、ほんと素晴らしい。そうやって振付が決まっていきました。100%自分のアイデアだけだと、つまらない。子どもたちから出たアイデアをもとにシーンを構成したんです」 

その証拠に、本作の当日パンフレットには舞台に立った子どもたちの名前が記されているが、出演者としてはもちろんのこと、「振付」としても役割がしっかりとクレジットされているのだ。 

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吉﨑は今回の公演にあたって、これまでとはまったく違うアプローチも試みたと振り返る。 

「普段のぼくは、出演者に向けて作品の背景や意図についてあまり語らないほうなんです。でも今回は違いました。子どもを相手にそんな自分のプライドなんていらない。そんなわけで、心を開いて子どもたちと向き合いました。ただひとつ気をつけていたのは、絶対に子ども扱いしないこと。プロフェッショナルのアーティストと同じように接しましたね」

そのまなざしは、今回の作品にもしっかりと反映されている。本作は、子どもたちの日々の練習成果を見せる「発表会」の類いとはまったく性質が異なる。ましてや子ども向けの作品でも断じてない。子どもたちとともに立ち上げ、軸足を揃えて築き上げていった舞台作品であると言っていい。

このような経験ができた子どもたちの未来には、大いに希望が持てる。「すみだみらいアーティストプロジェクト」の今後の展開に期待したい。

※この文章の吉﨑裕哉の発言は、すべてアフタートークより引用

新川貴詩(しんかわ たかし)
兵庫県生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。現在は東京都在住、隅田川沿いに暮らしています。美術/舞台芸術ジャーナリストとして、新聞や雑誌、Webサイトなどに文章を執筆。また、展覧会企画にも携わるほか、学校教員や編集者も務める。

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