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アートと福祉でともにつくりだす「アーティスト・イン・レクリエーション」【2024年度イベントレポート】

撮影:コムラマイ
企画名ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち― 「アーティスト・イン・レクリエーション」
団体名:一般社団法人藝と
開催日:勉強会:7月31日(水)・9月11日(水)・10月9日(水)
レクリエーション:11月20日(水)・21日(木)
報告会:12月10日(火)
会 場:勉強会:すみだボランティアセンター
レクリエーション:隅田作業所、社会福祉法人興望館
報告会:すみだリバーサイドホール ギャラリー

すみゆめプロジェクト企画の一つ、「アーティスト・イン・レクリエーション」。アーティストやキュレーターが墨田区内の福祉施設と協働し、施設で行うレクリエーションプログラムを共に企画するもので、11月に非公開で実施され、その報告会が1210日にすみだリバーサイトホール・ギャラリーで行われました。どのようなプロセスを経て、どんなレクリエーションを行ったのか。企画したインディペンデント・キュレーター青木彬さんへのインタビューと併せてレポートします。

「アーティスト・イン・レクリエーション」報告会(すみだリバーサイトホール ギャラリー)で語る青木彬さん

「アーティスト・イン・レクリエーション」報告会(すみだリバーサイトホール ギャラリー)で語る青木彬さん(右)

高齢者向けレクリエーションのための福祉+アートの勉強会

青木彬さんは、2018年から墨田区を舞台に、まちに集まる人々やアーティスト、研究者などとの出会いを通して豊かに生きるための創造力を育む「学びの場」を生み出すアートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―」(通称:ファンファン)を行っています。

今回の「アーティスト・イン・レクリエーション」は、ファンファンの活動拠点「藝とスタジオ」に地域の高齢者を招きたいという思いを、「自分たちからご自宅にうかがってもいいのではないか」と転換したことから生まれました。2023年、演劇制作の経験を持ち、作業療法士を目指して就学中の荒川真由子さんを公開ミーティングに招き、「墨田区は、1階を町工場や商店として、2階に居住する高齢者が多く、足腰が弱ると家に閉じこもりがちになる」と聞いたことから、翌年、在宅高齢者向けのプログラムを考えるワークショップを行っていました。 

その会場となった社会福祉法人「興望館」は1919年に創設され、芸術家や学生などが地域に移り住んで福祉課題に取り組んだ「セツルメント」の先駆的存在。ファンファンでは2019年から交流があり、202122年にはワークショップや展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」も行いました。

「共に在るところから/With People, Not For People」展示風景 撮影:加藤甫

「共に在るところから/With People, Not For People」展示風景 撮影:加藤甫

「共に在るところから/With People, Not For People」展示風景
撮影:加藤甫

福祉におけるクリエイティブの役割を考えるようになった青木さんは、2023年から社会福祉士(ソーシャルワーカー)の資格取得を目指しています。その実習先の施設で、アートで使う〈ワークショップ〉と福祉で使う〈レクリエーション〉という言葉に重なりを感じ、施設の職員に「福祉の専門誌『レクリエ』やYouTubeを参考にしているけれど、新しいレクリエーションを考えるのは大変だ」と聞きました。「それならアートは得意分野ではないか。誰もが地域の中で健康で文化的な生活を送る一助として、ワークショップとレクリエーションの持つ創造性を緩やかにつなげられないかと考え、すみゆめに応募したんです」。

応募の後、偶然にも興望館から、地域の高齢者が集う食事会「お食事友の会」で行うレクリエーションの相談がありました。「コミュニケーションに消極的な人でも特性や得意技が出るようなプログラムができたらと言われ、1回のイベントで終わるのではなく、仕組みのようなものがつくれるといいですねと話しました」。さらに墨田区の社会福祉協議会から、特定非営利法人とらいあんぐるが運営する就労継続支援B型施設「隅田作業所」を紹介されました。隅田作業所は「自分のペースで安心して働ける場所」として、軽作業や公園緑化事業、自主製品づくりと同様に、レクリエーションも活動の軸とされています。 

「福祉施設にうかがって一方的にプログラムを行うのではなく、まず福祉関係者とアート関係者とで共通言語をつくろう」と考えた青木さんは、月に1度、3回にわたり勉強会を行いました。参加者は、墨田区在住でコミュニケーションなどをテーマに活動する佐藤史治+原口寛子、千住を拠点としてダンスを社会に活かす活動を行う上本竜平の2組のアーティスト、「興望館」と「隅田作業所」の施設職員、社会福祉協議会(社協)の職員。「場を整えてからアーティストを連れてくると、想像力やクリエイティビティをアーティストだけが担う気がしたので、最初からみんなで一緒に考えていきました」と青木さん。

2024年夏から秋に行った勉強会の様子

2024年夏から秋に行った勉強会の様子

1回目に、佐藤+原口は興望館、上本は隅田作業所と協働することを伝えました。活動紹介を通じて、利用者さんの様子や空間の制約などが見え、2回目にはレクリエーションの大まかな提案を共有し、施設ではどう実現できるか、やり取りが進みます。3回目には施設側からのフィードバックで具体的なディティールを詰めることができました。

佐藤史治+原口寛子×興望館「オリジナルの四字熟語をつくろう!」

これまで地域の記憶に触れてきた佐藤さん+原口さんは、人生の教訓といったキーワードから、言葉でアウトプットすることになり、「オリジナルの四字熟語をつくろう!」というプランが生まれました。まず「お食事友の会」を下見し、高齢者や施設担当者と話すうちに「当日いきなりお題を出すより、家でやってきてもらった方がいいんじゃないか」となり、再び「お食事友の会」に出向いて自己紹介とワークシートを配布しました。ワークシートに、普段の生活にまつわるエピソードを150字ほどで書き、四つの漢字を抜き出すと四字熟語ができます。おかげで約20~30名による40~50個の四字熟語ができ、イラストを添えてくれる人も。「例えば、朝晩お薬を飲んでいることから『毎日朝夕』といった生活に根ざした作品もあれば、愛しながら仕事をすると健康でありお金にもなるという意味の『愛事時金』などウィットの効いた作品もありました。また、ご自分でつくるのが難しい方には、佐藤さんがお話を聞いて書き起こしました。熱心に戦争中の話をしてくださる方もいました」。

佐藤史治さん(右)

佐藤史治さん(右)

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食事はもちろん、会話や歌なども楽しみにされているみなさん。四字熟語というミニマルな言葉の背景に人生の一場面やストーリーがあり、見た人も自由に想像できる、豊かなコミュニケーションツールにもなっています。施設職員からは「普段の作業では見られない個性が見られ、誰もが等しく生きている、そんな生命力が詰まったレクリエーションに感じました」という感想も。その後、佐藤さん+原口さんから「7080代ならではのエピソードと四字熟語を冊子にして学童の子どもたちに配布し、次は子どもバージョンができても面白そう。オリジナルの漢字ドリルもつくりたい」といったアイデアも出ているそうです。

四字熟語づくりをサポートする原口寛子さん

四字熟語づくりをサポートする原口寛子さん

上本竜平×隅田作業所のコンタクト・インプロヴィゼーション

上本竜平さんは、コンタクト・インプロヴィゼーション−即興的に他者と触れ合い、自身や相手の身体感覚に意識を向けていくダンスを行っています。ところが、勉強会の1回目で「福祉の現場では利用者さんへの身体的な接触を禁じているところが多い」と知りました。「隅田作業所さんが上本さんの意図を聞き、施設で検討してくださった結果、施設内でのレクリエーションについては接触OKになりました。上本さんも施設のルールを柔軟に受け入れ、ドキドキしながら2回目を迎えましたが、隅田作業所さんが前例のない取り組みに可能性を感じてくださって。もし何かネガティブなことが生まれたとしても、それ自体も貴重な経験として捉えていきたいと理解してくださったのでチャレンジできたのです」と青木さん。ダンスをどう説明するか話し合い、施設側で利用者同士のペアを決めてもらいました。

さて、隅田作業所での本番です。前半は自分の身体に意識を向けていく体操のような動きから始まり、その後、ペアで相手の掌に自分の掌を添え、手を上げて下ろしてという簡単な動作を行います。目を閉じて相手の動きに誘導されながら移動し、だんだん動きが大人数につながるワークを行いました。後半は普段の軽作業時にかけているJポップを使い、サビの部分でみんなで大きな動きを行いました。「普段用いたことのない楽曲で踊ることは、上本さんにとってもチャレンジです。また、社協の職員さんも一緒にワークを行ってくださいました」と青木さん。

上本竜平さん(左)

上本竜平さん(左)

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なお、躍らない人にも苦痛がないよう、写真撮影係として使い捨てカメラを用意していました。会場のキャパシティで一度に全員ではできなかったので、見学中に撮影を依頼した人もいました。当初、心配した接触も問題なく、参加者からは「自由な感じ」「新鮮でした」などの好反応を得ました。

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アーティストの手を離れ、方法論や仕組みを手渡す

事前の勉強会の成果とも言えますが、福祉職同士が知り合う機会も希少なため、ざっくばらんに話せる機会にもなったそうです。「難しいと思っていたことをみんなで考えて乗り越えられたことがよかった」、「声の大きい利用者さんばかりでなく、今回のように小さな声も拾えると嬉しい」という意見もありました。今後、教育分野などと協働する可能性も秘めているかもしれません。 

青木さんは、『レクリエ』にアーティストのアイデアが掲載されることも目標の一つとしています。「佐藤+原口には特に、アーティストがいなくても継続できる仕組みを残してほしいと依頼しました。コロナ禍に複数の美術館が自宅でできるワークショップをウェブで公開していましたよね。そうした既存のプログラムの活用や、作品未満のものを表現してくれるアーティストがいるのではないか。施設の職員さんに方法論や仕組みを手渡すことができないかと考えています」。『アーティスト・イン・レクリエーション』を参加して学び合うプラットフォーム化したい、ただし予算を含めてどんな枠組みがつくれるのか。課題を抱えつつ勉強会は続けていくと聞きました。「すみゆめ」としては単年度の取り組みですが、リサーチなど丁寧なプロセスを伴うプロジェクト。複数年にわたって支援があると、可能性が広がるのでしょう。

青木さんは「施設での実習中に、アートに関わっていることで役立つ感覚があり、アートと福祉の協働が浸透してほしいと思っています。自分が歳を重ねて外にあまり出られなくなったとしても、芝居を見に行きたい、アーティストのワークショップに参加したいといった文化的体験が叶う未来をつくりたい」と夢を語りました。

白坂由里
アートライター。『WEEKLYぴあ』編集部を経て、1997年に独立。美術を体験する鑑賞者の変化に関心があり、主に美術館の教育普及、地域やケアにまつわるアートプロジェクトなどを取材・執筆している。

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