魔法も妖精もでてこない!今までにないシェイクスピア野外劇!【2016年レポート】
はじめまして。すみゆめ活動レポーター、墨田区生まれ墨田区育ちの菅野瑛美です。
今回わたしが参加したイベントは絶区シアターさんの「水神の森 眞夏の夜の夢」という野外劇。そうです!タイトルからわかるとおりシェイクスピアの名作を上演するとのことなのです!
観劇日は公演最終日、劇場は東白髭公園内の特設会場です。
白いテントの下に観客用のパイプ椅子、目の前左手に椅子とテーブル、右手には赤い板が横たわっているだけのシンプルな舞台空間。そこに点々とそびえる木々が暗闇と相俟って、鬱蒼とした森に変化しています。
ちなみに劇場の近くには隅田川神社があり、そこには水神さまが祀られています。
なるほど、だから水神の森なのか。
受付に行くとチケットとともに狐のお面を渡されます。
このお面が半券変わりになるのでどこか分かるところに身につけて鑑賞してくださいとのこと。わたしはお祭り気分よろしく頭につけました(笑)
ゆずしょうが茶が振る舞われ、心も温まり、鑑賞する準備は万端です。
開演時間になり、主催者の安藤達郎さん(構成・演出)の挨拶からはじまります。
以前より古典に挑戦したいという想いがあり、誰もが知っているシェイクスピア劇の上演を決めたそうです。
はじめに原作の「真夏の夜の夢」のあらすじが紹介されました。
男女4人の恋のドタバタ劇。ハーミアは親の反対を押しきり、ライサンダーと駆け落ちしようと森に向かう。ハーミアの婚約者であるディミトリアス、ディミトリアスに片想い中のヘレナもそのあとを追う。しかしその森で、妖精の使う惚れ薬によって、ライサンダーとディミトリアスがヘレナを愛するようになってしまう。後日ライサンダーにかかった魔法は解かれ、ハーミヤとの関係も元通り。ディミトリアスはヘレナを好きなままだけれど、2組の男女は円満な関係に落ち着いたということで結婚式が執り行われる。
さて今回の絶区シアターさんの「眞夏の夜の夢」の見どころは、本来の醍醐味である妖精も惚れ薬も全部削ぎ落とされているところです!
ハーミヤとライサンダーが森で離ればなれに一夜を過ごすシーン…原作では妖精が間違えてライサンダーに惚れ薬をかけてしまい、そこへヘレナが通りかかったためにライサンダーが惚れてしまうわけですが、今回は魔法も妖精もないので、二人で一緒に寝るのを拒んだハーミヤに愛想をつかしてヘレナを好きになるいい加減な男に見えてしまいます。
またディミトリアスがヘレナを好きになったのも、ヘレナを可哀想と思った妖精たちがディミトリアスが眠っているうちに惚れ薬をかけ、そこへヘレナを連れてきたからなのですが、観客からしてみればハーミヤにことごとく振られためヘレナに心代わりしたように見えるわけです。しかももともとハーミヤが現れる前は、ディミトリアスはヘレナが好きだったんですからなおさらそう思いますよね。
妖精や魔法が無いからこそ、人の心のうつろいやすさが鮮明になっていく。
ディミトリアスが眠る度に見る「狐の嫁入り」の夢が、今ここは夢なのか現なのかと観客をさらに混乱させます。
ディミトリアスが村一のイケメンとなり、ヘレナが狐。雨が降らないことに悩む村を助けるべく、狐を生け贄にするため口説き落として結婚をもくろむというストーリー。
夢でもヘレナに似た人を口説いて、現実でもヘレナを口説く。しかもそれは魔法でかけられた恋心だからディミトリアス自身でも違和感を持っている…
ディミトリアスの「僕たちは確かに目がさめているのだろうか?まだ眠っているようだ、夢を見ているようだ」という最後のセリフがわたしの気持ちを代弁してくれました。
さらに、キャラクターたちの恋心に従順な行動が、人の心のうつろいやすさを強調してくれたように思いました。駆落ちするときのハーミヤとライサンダーのバカップルぶりはとても可愛いく、ヘレナのヒステリックな悲劇のヒロイン、そしてぶりっこぶりもよく演じられていました。
後日、安藤さんにお話を伺いました。
―シェイクスピアを上演しようと思ったきっかけを教えてください
前々から森の中で古典をやりたいという想いがあって、以前から森を探していたんです。公園管理の方に話を伺ったりしたのですが中々難しいところもあり…そんな最中すみゆめプロジェクトが始動しました。ならば東白髭公園でやりたいとなったのですが…実はここ墨田区の公園じゃなくて
実は東京都の公園なんです。なので東京都へ交渉し公演が成り立ちました。
―そうなんですね、墨田区の公園だと思っていました。話を伺っていると場所に拘りがあるように見受けられましたが、場所から構想を得ることが多いのですか?
そうですね。「場所」はかなり重要ですね。演劇をやるためには劇場があるわけですが、単純な話劇場はお金を出せば比較的何でもできてしまう。でもこういった制限がある中でやるということは、それに関わる人との関係性がでてくると思うんですよ。なので制限のある中でやることは自分にとって非常に大事なんです。
―今回「狐の嫁入り」の民話が盛り込まれていましたがその意図を伺ってもいいですか。
『眞夏の夜の夢』には結婚シーンがあるのですが、調べたところ「結婚に雨が降るのは縁起がいい」という迷信がアジア中心に多くあることが分かり水神さまがいる場所にぴったりだなぁと、そこで『狐の嫁入り』の話もふと出てきたので組み込もうと思いました。
また『狐の嫁入り』で、狐は騙されても結局は相手の幸せを考えて、自分を犠牲にしてまで結婚するわけじゃないですか。でも本当にこれでいいの?みたいなモヤモヤが、ディミトリアスが夢?魔法?でヘレナを好きになったまま結婚するというモヤモヤと重なり、それもあって導入することにしました。
―半券代わりに渡された狐のお面も何か意味があったのですか
特に狐だからとかはないのですが、本来人間には妖精も魔法も見えてないわけです。
自分たちの力に翻弄される人間を、妖精達は観察する。この観察している環境は非常にシェイクスピアも大切にしていた要素だと思うし、僕自身も大切にしたかった。だから、動物であったり妖精であったり、人間以外が傍から傍観している空間をつくりあげたかったんです。
―次回の演劇構想があればお聞かせください
会場近くに木母寺という場所があるんです。能『隅田川』の発祥の地でもあるので、能をやってみたいですね。でも、とりあえず野外は疲れました(笑)
シェイクスピアの次は能!?
実現するのか、はたまた違う「場所」での公演になるのか、ますます絶区シアターさんの今後の活動に目が離せませんね!
レポーター:
菅野瑛美(かんのえいみ)
墨田区生まれ墨田区育ち。すみゆめ活動レポーターが初めての執筆活動となる。趣味はアートと旅行とおいしいものを食べること。アート好きが高じて、現在アートマネージャーとして展示を手がけるなど多岐に活動をしています。
○2017/2/9~2/14 国立市アートイマジンギャラリー
芸術の存在意義「展」No.25にてギャラリートーク
○2017/5/1~5/7 下北沢バロンデッセギャラリー
「ROOM」展 (https://www.facebook.com/events/1805770966331324/)