着物ファッションショー【2016年レポート】
長く着られる着物の良さを見直し、あわせて新しい着物の着こなしを提案する「北斎着物ファッションショー」が10月8日、葛飾北斎ゆかりの柳島妙見山法性寺(ほっしょうじ・墨田区業平)で、開かれました。
当日は正午頃から雨が降り始め、ファッションショー開場時間には土砂降りとなり、境内にテントを張っての「手づくり市」は一時屋内に避難するほど。それにもかかわらず、開演時刻の13時には会場の本堂が満員となりました。雨にもかかわらず着物姿の女性や和装の男性グループ、外国からのお客さんも10人近く。中には着物体験コーナーで着付けてもらった着物でのぞんだ女性もいらっしゃいました。
会場の本堂は、ご本尊の手前、ふだんであればご住職がお経をあげられるあたりにマットを敷いて舞台とし、左右の畳の間と正面の玄関口が客席となりました。モデルさんたちは、上手客席の後ろを通ってご本尊の前に進み、演技を始める形です。
ファッションショーは「北斎の時代の着物スタイル」「未来の着物スタイル」の二部構成でした。
第一部「北斎の時代の着物スタイル」は、飛脚、呉服屋の娘、子守役の町娘、豪商の若旦那、御茶屋の看板娘、寺子屋の先生が登場します。いずれも今ある古着を使っているので、時代考証から言えば違うところもあるかも知れませんが、雰囲気は出ています。
先に登場した女優の兼田玲菜さんが口上を述べた後、モデルさんが一人ずつ登場。客席の前で見得を切ると、玲菜さんが登場人物を紹介していきます。モデルさんの肩をぽんと叩くとストップモーションが解けて、玲菜さんも登場人物の一人となって、娘たちと世間話に花を咲かせ、若旦那とは小商いのそろばん勘定をはじく、といった趣向です。この間、月虹子(つきこ)さんが、笛や民族楽器の即興演奏で花を添えます。
女優の荒山昌子さんは、この日のために二つの一人芝居作品を書き下ろしました。
一つめは、美人画で知られる葛飾応為(おうい)が主人公。北斎の娘として、弟子として、年に一度、時には二度までも、引っ越しをくり返す北斎の暮らしを助け、貧乏所帯をやりくりしていました。その様子が、ほかの弟子との会話や、滝沢馬琴の嫁との会話から浮かび上がります。
二つめは、百年後、三度目の東京オリンピックで正式種目になった世界伝統衣装競技でのお話。荒山さん演じる日本チームのキャプテンは、個人競技でメダルを取った選手を祝福し、団体競技を前にくじけそうになっている選手を叱咤激励します。そしてファスト・ファッションが全盛だった百年前について語ります。
荒山さんの二つのお芝居の間に中入りがありました。
まず、このファッションショーを企画した日本リ・ファッション協会代表理事の鈴木純子さんが着物姿で登場、協会の活動と今回の趣旨を話されました。
鈴木さんは高校時代から「優等生だけでなく、みんなが輝ける社会ってどのような社会だろう」と考え続け、良いもの(今回は着物で表現)を長く使う社会(持続可能な循環型社会)へと世の中を変える一助になりたいと、協会設立に至ったそうです。そこには、事業を続けながら周囲の困りごとを解決し、多くの人から慕われたお祖父さんの影響もありました。
続いて、鈴木良敬法性寺住職と鈴木純子さんとの対談となり、法性寺の縁起と北斎との関係に話が及びました。
法性寺は1492年、コロンブスが新大陸を発見したのと同じ年に創建されました。「妙見さま(北極星)が柳嶋の地に舞い降りた」との言い伝えから、境内には妙見さまが祀られ、正式名称も「柳嶋妙見山法性寺」と、なっています。
葛飾北斎は、この妙見さまを生涯信仰しました。若い頃はなかなか芽が出ず、親方から破門されそうになります。困り果てた北斎は、妙見さまに21日間の願かけ詣りをしました。その満願成就の夜、雷が北斎を直撃。なんと、命が助かったばかりか、画家としても開眼したのでした。
法性寺の建物は、現在は、鉄筋コンクリート造りとなっていますが、そのおかげで、北斎の時代と変わらず、現在の地にあるということでした。
荒山さんの二つ目のお芝居を導入として、着物ファッションショーの第2部が始まりました。ポーランド、アメリカ、フランス、ウクライナのモデルさんも加わり、荒山さん、兼田さんも登場しました。モダンな照明やダンス音楽も流れて、さながら「世界伝統衣装競技」のよう。モデルさんたちには、私たちがふだん目にする着物とは違う、未来的な、モダンな着付けが施されていました。
ショーの後は撮影会となり、来場者が着物姿のモデルさんたちを撮り続けていました。
良敬住職が「雨のち晴れは法性寺にとって良い天気」と言われたように、終演時には雨も上がり、境内の手づくり市も「復活」です。オーガニック食材の「愛菜食堂がじゃま~る」、和風手づくり小物「Rim Lem Crystal」、子育て占い(タロット・手相等)の武蔵坊龍山、足先のマッサージで未病を癒す香輪(かりん)、場に合わせた即興野点の息継庵(いきつぐあん)、オリジナル缶バッジづくりのダーツが出ていました。
レポーター:山田岳(やまだがく)
エンジニア、放送作家を経て、個人事務所「ただすのもり環境学習研究所」を開きました。地域コミュニティと地域経済と環境が並び立ち、子や孫の世代まで安心・安全に暮らせる世の中を目指して情報を発信中です。「すみゆめ」では伝統と環境、歴史ある墨田区らしさ、誰も取り残さない社会づくり、をテーマとするイベントに注目しています。