レポート

隅田川をひらく 鈴木康広「ファスナーの船」【2018年レポート】

2018.12. 14~2018.12.28 | レポート

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企画名鈴木康広「ファスナーの船」
  • 団体名 : 「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会、墨田区、株式会社KADOKAWA
  • 開催日 : 2018年12月 14日 (金) ~2018年12月28日(金)
  • 会場 : 隅田川の吾妻橋から桜橋の間を運航

日常の何気ない風景や身近な物からインスピレーションを受け、ものごとの見方を変える作品で知られる鈴木康広。「ファスナーの船」は、巨大なファスナーの形をした船が水上を運航し、その引き波がまるで水面をファスナーが開いているかのように見える作品です。これまでも瀬戸内国際芸術祭などで発表されており、さまざまな水辺を開いてきました。今回の隅田川では初めて「川を開く」ことになりました。

運航初日、鈴木さんを囲んでの取材会が行われました。会場は隅田川のほとりに建つ複合ビル・MIRROR。鈴木さんがラジコン版の「ファスナーの船」を持って登場しました。

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この作品を思いついたのは2002年ごろ。朝早く福岡行きの飛行機で東京湾上を旋回しているとき、たまたま座っていた窓際の席から下を眺めると、水面に浮かぶたくさんの船が見えました。その時に一瞬、船をファスナーと見間違えてしまい、作品のことを思いついたそうです。確かに高い場所から見る、船がゆっくりと海を切り開く様は、ファスナーの動きに重ね合わせることができます。
しかし当時の鈴木さんは、アートというものは「人間にとってもっと切実なメッセージを届けるもの」だと感じており、すぐにはそれを形にしませんでした。けれども、ある時友人にそのスケッチを見せると「絶対にやったほうがいい」と言われ、ラジコン型のファスナーの船を制作して、近所の公園の池を「開く」ことから始めました。
「この作品のポイントは、僕自身がファスナーをつくった訳ではないところです」と鈴木さんは語ります。私たちが生活する中で、ファスナーは当たり前のように物を閉じたり開けたりしています。しかしそれは、ファスナーがなければできない魔法のようなことではないか。私たちにとっては自然現象のようになっていることを、この作品で言えばファスナーの魅力を再発見していくことが大事だ、と鈴木さんは考えているそうです。
「ファスナーの船」において重要なのはファスナーだけではありません。船そのものも、作品にすることで見えてくるものがあります。船は新しい大陸に人々を連れていき、海に隔たれた場所同士の交流を可能にします。船もまた世界を「開く」力を持っているのです。今まで繋がっていなかった何かをつなぐ。これも、ファスナーと船の共通点であり、しかし私たちが普段気づくことのできないほど当たり前なことです。もしかしたらファスナーも、単に開け閉めするだけでなく、ある人にとっては「開ける・閉める」に意味があるのではないかと、船と照らし合わせて感じることもできます。鈴木さんは「ファスナーの船」が、この身近な2つのものの機能を改めて捉え直すきっかけになれれば、と語っています。

この辺りまで鈴木さんが話し終えると、ちょうどファスナーの船が会場の近くを通過するとのアナウンスがあり、その様子を眺めてみることになりました。
ビルの上にあがり、全員が心待ちにする中、遠くに変わった形の船が見え始めました。様々な船が行き交う隅田川ですが、ちょうどその時は他の船がおらず、絶好のタイミングで「ファスナーの船」がやってきました。

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目の前を流れる川、その中心をすーっと開いていくファスナー。見慣れた川も普段と違うものに思えてきます。引き波をたてて隅田川を開き、船は去って行きました。その様子を取材陣は静かに見つめて、姿が見えなくなると自然と拍手が起こりました。無事に運航が始まり、鈴木さんもホッとした様子でした。

この作品は吾妻橋と桜橋の間を往復します。私もそちらへ向かってみることにしました。吾妻橋の上で待っていると、遠くの水面に小さく浮かぶファスナーが見えます。近くで見るのも迫力がありますが、遠くに見える「ファスナーの船」は普通のファスナーと同じサイズで見えるので、本当に青い布にくっついているように思え、その光景もまた面白いと感じます。

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しかし、やはり近くから見ると、しっかりと船サイズの巨大ファスナーになっていて迫力があります。橋の上でびっくりしながら見ている通りすがりの人もいらっしゃいました。

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鈴木さんは、「隅田川の水面の下には、江戸時代の人が投げたかもしれない石などが沈んでいて、古代からそこにある記憶のような何かが、これによって開かれるといい」と語っています。「ファスナーの船」がもう一度人々を水辺に引き寄せ、新しい川の姿を目撃するきっかけになるかもしれません。スカイツリーを背に進む船の姿に、その可能性を感じました。

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高橋大斗 1995年山形生まれ。大学で文化政策、芸術の哲学的視点からの分析をメインに研究をし、2018年3月に卒業。多数のアートプロジェクトで運営や記録スタッフとして活動しているほか、ストリーミングなどのメディアにも関わる。またノイズミュージシャン、ライターとしても活動中。

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(公益財団法人墨田区文化振興財団 内)

03-5608-5446(平日9:30〜16:30)
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