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義太夫節で日本語の響きを体感【2016年レポート】

企画名大声出しちゃおう! ~義太夫体験ワークショップ~
団体名:topping east/hanai studio
開催日:2016年11月06日(日)
会 場:江戸東京博物館5 階 常設展示室 中村座前

 116日(日)、両国・江戸東京博物館の中村座前が義太夫節のステージと化しました。

文楽や歌舞伎の音楽として知られる義太夫節は、三味線の伴奏とともにナレーションや様々な登場人物のセリフを語り分けながら物語を語る浄瑠璃の流派の一つ。江戸時代前期に竹本義太夫が始めたもので、300年以上の歴史がある日本の伝統芸能であり、国の重要無形文化財にも指定されています。

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義太夫の竹本京之助さん、三味線の鶴沢弥々さんが舞台にあがると、義太夫についてのレクチャーが始まりました。義太夫節の正装は、写真の通り、肩衣と袴の裃姿。それは女流義太夫とて変わらないものだそうです。また、一般に細棹・中棹・太棹と3種類ある三味線の中でも、力強い音が出る太棹の三味線を大きめの撥(ばち)で演奏するとのこと。そのほか、義太夫の台本である「床本(ゆかほん)」、そしてその床本を置く「見台(けんだい)」が実物とともに紹介されました。また、語りを担当する義太夫は、おへそから指3本分ほど下に位置する丹田(たんでん)を腹帯でギュッと締め、「尻引」と呼ばれる小さな椅子のようなものを足とお尻の間に挟み、つま先立ちで少し前かがみになるような姿勢で語ります。こうした方が丹田に力が入り、大きな声が出るのだそうです。

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 レクチャーが終わると、いよいよ義太夫節のライブ&ワークショップ。今回は「傾城(けいせい)阿波の鳴門 順礼歌の段」を披露してくれました。あらすじは次のとおり。親子の情愛を描いた物語です。

<あらすじ>

徳島藩の宝である刀が盗まれ、その刀探しのために大阪まで出て来た十郎兵衛とお弓の夫婦。生まれたばかりの娘・お鶴を祖母に預け、盗賊に身をやつして方々を探し回っていた。そこへ、一目でいいから父母に会いたいと、巡礼姿のお鶴が一人で大阪までやってくる。偶然出会ったお弓とお鶴。話すうちにお弓はお鶴が我が子だと分かるが、盗賊の身の自分が親だと知れてもお鶴に災いがふりかかるだけと、涙を呑んで別れる。それでもやはり名残惜しく、ここで別れてしまっては一生会えないかもしれないと思い直し、お鶴の後を追う。

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鶴沢弥々さんのパワフルな三味線にのせて、竹本京之助さんが感情豊かに物語を語り始めると、その力強さに引き寄せられるかのように中村座前にはたくさんの人たちが集まってきました。あらすじは事前に聞いていたものの、声の調子や出し方、語りのテンポなど義太夫の手にかかると物語の世界がより立体的になっていくようです。義太夫と三味線の息の合ったコンビネーションに、お二方が積み上げてきたものの凄みを感じました。その熱演に、みなさんじっくりと耳を傾け、静かに見守っていました。

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冒頭のさわり部分までをひと通り終えると、いよいよワークショップの時間です。先ほど竹本京之助さんがやられていたお鶴のセリフ部分を参加者全員で声に出していきます。義太夫節では、子どもの声は抑揚をつけずにまっすぐ一本調子で出すのが特徴。もちろん、子どもの声なので可愛らしく高めに出すのは言うまでもありません。竹本京之助さんが参加者の方々をリードするように、ナレーションやお弓のセリフを語っていきます。

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「アイ、国は阿波の徳島でござります」――。老若男女を問わず、約50人の参加者が一斉に声を出します。セリフがプリントされた紙を手に、最初は恥ずかしそうにしていた参加者のみなさん。何度か練習していくうちに徐々に慣れてきたのか、最後にはいじらしく可愛らしい声を出してお鶴になりきっていました。その様子は、さながら義太夫節のコール&レスポンス。中村座前一帯が義太夫節を通じて一つになったようでした。

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 この先の物語は、再び竹本京之助さんと鶴沢弥々さんによるライブで語り進められていきました。クライマックスへと差し掛かるにつれ、自分が母親だと名乗るに名乗れないお弓の葛藤する気持ちが伝わり、物語の世界観にどんどん引き込まれていきます。語り手の額にじわりと滲む汗に、その語りの熱量を感じずにはいられませんでした。

 おなかの底から声を出すことも、そうした声を聴くことも、ふだんなかなか機会がないもの。日本語の持つ独特の響きを、文字通り自分の体を通して体感することができました。

 

レポーター:岩本 恵美(いわもと えみ)

東京・下町生まれ、下町育ちのライター・編集者。Webメディアや新聞紙面の制作に約10年携わり、2016年よりフリーランスに。アートや音楽などカルチャー全般が好きで、食わず嫌いのない雑食系です。趣味は、東東京を中心とした街歩き。「すみゆめ」を機に、墨田区をどんどん開拓していきたいと思います。

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