レポート

瞽女(ゴゼ)の魅力と広瀬浩二郎の仕事【2016年レポート】

2016.10.29 | レポート

企画名もんてん瞽女プロジェクト2016【対談と演奏】
  • 団体名 : 一般社団法人もんてん(両国門天ホール)
  • 開催日 : 2016年10月29日 (土)
  • 会場 : 両国門天ホール(墨田区両国1丁目3−9)

 「瞽女(以下、ゴゼ)」の「ゴ」は鼓の下に目を書く。盲人を表し、古代の楽人とも、と辞書にはあります。「ゴゼ」とは目の不自由な女性楽芸人のこと。昭和の頃まで、新潟県には農山村を回って唄芸を披露するゴゼがいました。

 方や、広瀬浩二郎さんは「琵琶を持たない琵琶法師」を自称する国立民族博物館の准教授。小学校高学年で失明していながら京都大学で博士号をとられています。

 ゴゼと広瀬さんを通して「見えないものを見る」講演・公演とワークショップが10月29,30日、両国門天ホールで開かれました。

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 初日は、ゴゼ文化を顕彰する会理事の川野楠己(くすみ)さんと、ゴゼ唄伝承者の萱森(かやもり)直子さんが、「最後のゴゼ」小林ハルさんの思い出を語ることで始まりました。

 萱森さんは点訳ボランティアの研修で訪れた盲人高齢者施設で偶然にもハルさんの演奏に出会い、「目に見える世界、五線譜の世界、文学など他の世界を一切拒否していた」ゴゼ唄に「眠れないほどの衝撃を受けた」と、言います。

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 川野さんからはゴゼの暮らしぶりやハルさんについての紹介がありました。

 「さすらいの旅芸人」のイメージがつきまとうゴゼですが、年間スケジュールは年に一度の親方の寄り合いで決められていました。農繁期の夏は数を絞り、冬は大雪の日でも目的地に行かなければなりません。

 1、2か月分の着替えと衣装を荷造りして担ぎ、少し見える者を先頭に、親方、末弟子の順に並んで左手で前の者の荷物を押さえ、右手で杖をついて歩く姿は、ゴゼに関する資料写真でよく目にするところです。

公演会場はだいたいが農家の大広間。到着早々、家々の玄関先や商店の店先を回って門付けを歌い、公演を知らせます。各家も一升のお米を寄進して応えます。

 ゴゼ唄は農民にとって癒しであり、隣村など余所の事情を知るニュースメディアであり、「ゴゼにさわってもらうとカイコのできが良くなる」信仰の対象でもありました。

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 川野さんはNHKのディレクターとして小林ハルさんに出会い、94歳の時の演奏をCDに収録しています。その傍ら、九州の琵琶法師の流れを汲む故永田法順師の演奏も収録しています(当日一部が披露されました)。

 ゴゼ・琵琶法師に見られるように、日本の伝統芸能は視覚障がい者によって支えられてきました。この流れは、説教節、浪花(なにわ)節へとつながり、琵琶も、筑前琵琶、薩摩琵琶として、今日に至っていると川野さんは言います。

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 ゴゼは江戸時代までは全国に存在し、「ゴゼ転び」「ゴゼ観音」などの地名にその名残を留めています。

 「ゴゼ唄」は総称であって、実際の演目は長唄、民謡、祭文松坂(さいもんまつざか、浄瑠璃のような語り物)と多岐にわたります。涙を誘うものもあれば、笑いを誘うものもあり、テレビのなかった時代に人々を楽しませてきました。

 健常者の萱森さんは「自分はゴゼではない」と言います。「師匠(ハルさん)の声で自分の耳に届いたものをみなさんに届けるだけ(の伝承者)」と。元々は津軽三味線の演奏者だったことから、楽譜も何もないなかで芸を受け継ぐことができたのでしょう。そして「ゴゼの誇りは侵さない」と。

 この日は、祭文松坂から「葛の葉の子別れ 第二段」が披露されました。陰陽師安倍晴明の幼年時代、産みの母である信太の森のキツネとの別れのシーンです。身体の細い萱森さんのどこからこのような太い声が出るのか不思議です。くり返し出てくる節回しの中にどこかの民謡にも似たフレーズがあったような気がしました。

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 ゴゼや琵琶法師がつい最近まで存在したことについて広瀬浩二郎さんは「彼らが自分たちの芸の世界に健常者を引き込んだから」と言います。

 例にあげられた「平家物語 屋島の段」では、舟に乗った女房の赤い袴、掲げられた黄金の扇など、カラフルな描写が続きます。テレビのなかった時代、これらの描写は聞く者に具体的なイメージを喚起しました。また喚起しやすいように、時間をかけて歌われました。法師やゴゼの方でも、観客の反応を耳で感じながら演奏の仕方を変えていきます。

 こうしたイメージの芸が生きていた時代は、今よりも「豊かな社会だったのではないか」と広瀬さんは総括しました。

 

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 2日目は広瀬浩二郎さんのワークショップ(以下、WS)が、子ども向けと大人向けと2回に分けて行われました。参加者は4組の子どもと保護者でしたが、一度自己紹介をしてもらうと広瀬さんは子どもたちの名前を覚えてしまいました。

 子どもの部はクイズから入りました。

 「一番高いおみやげはどれ?」:3つあるトーテムポールのおみやげから一番値段の高い物を当てようというもの。「見るのは一面的知覚(表しか分からない)」「触るのは多面的知覚(裏も分かる)」ということを学びました。

 「袋の中の動物は何?」:黒いビニール袋の中に何の動物フィギュアが入っているのか触るだけで当てようというもの。鼻の長い動物はすぐにわかりますが、そうでないものはサイ?イノシシ?と迷います。触って考えること、時間をかけて考えることの大切さを学びました。

 「何を持っていますか?」:今度は黒いビニール袋の中に外国の品々が入っていました。触りながら、大きさや材質、触感、どのような音がするのかを他の参加者に説明します。出してみても何に使うのか分からないものばかり。塗装のために見ただけでは彫りが入っていることがわからないものもありました。目の不自由な人が初めての物に触ったときの経験や、目の不自由な人に説明する難しさを学びました。

 この後、凹凸のついた国旗や点字一覧表を直に触って、「最初はよく分からなかったけれど、毎日触っているうちに点字もすらすら読めるようになった」という広瀬さんの経験の一端を追体験しました。

 広瀬さんは「触って考える、時間をかけて考えることで今まで気づいていなかった能力が耕される。そのことでふだんの生活がより面白くなりますよ」と言って、子どもの部を締めくくりました。

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 大人の部は参加者16人。最初に短いレクチャーがあり、ゴゼや琵琶法師が感じていた世界を参加者に感じてもらうのがこのWSの狙いであり、触る感動を手がかりとする「手学問のススメ」には「3つのシン-深、伸、新がある」と、広瀬さんは説明しました。

 「深」物に触ることで、より深める。

 「伸」耳をそばだてて音を聞くのは「音を取りに行くこと」、アンテナを伸ばすこと。

 「新」身体を動かすことで新しいコミュニケーションを図る。

 

 「深」のWSは、子どもの部と同じ「袋の中の動物」でしたが、広瀬さんは「物と対話する物ローグ」と言いました。モノローグ(独白)の洒落ではなく「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」(暗闇の中で参加者同士が対話する手法)に引っかけた造語だそうです。

 

 「伸」ではまず「平曲 那須与市」の段をCDで聞きました。演奏者は名古屋在住の平曲伝承者の今井勉さん。視覚障害者です。

 事前に、同じくだりを広瀬さんが読みあげた後に聞くと、琵琶法師が何倍も時間をかけてゆっくりと語っていることがわかります。昨日の広瀬さんの話にもあったように、聞く者に情景のイメージを喚起するための手法です。「視覚中心では、観客の能動性が奪われる」と、広瀬さんは言います。

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 「これ何だかわかりますか?」と、広瀬さんが取り出した物は、雨水利用のまち墨田では時々目にするレインスティック。細いサボテンの茎の中をビーズが引っかかりながら落ちていくことで雨の音を出す「楽器」です。

 この音を手がかりに想像する。雨の日の出来事を思い出す。その時、聞く者は聴覚情報を視覚情報に変換しているのだと広瀬さんは言います。

 日本に来たばかりのラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は神戸でゴゼ唄を聞き、日本語が分からないながらも「人生の喜びや苦しみが凝縮されている」と感じました。広瀬さんも留学先のシカゴでブルースの生演奏を聞いて、声の響きから歌い手の魂が伝わってくるのを感じたそうです。

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 「新」は、学生時代から合気道を続けている広瀬さんならではの身体を使ったWSでした。健常者の合気道は、相手の動きを見て反応します。目の不自由な広瀬さんは、試行錯誤の末、腕と腕とを重ねたところから組み手を始めることにしました。上級者同士で組むと、腕と腕が磁石で吸い付いたように動き回るそうです。これを参加者も体験しました。腕の一点に意識を集中させる。目をつむるとより意識も集中します。腕に触れる感触から相手の動きを察知します。

 健常者が目の不自由な人を肘でガイドするときも、これと同じコミュニケーションが行われていると広瀬さんは言います。肘の動きで、右へ曲がるのか、階段を登るのか、みな分かるのだと、広瀬さんは話していました。

 

レポーター:山田岳(やまだがく)

エンジニア、放送作家を経て、個人事務所「ただすのもり環境学習研究所」を開きました。地域コミュニティと地域経済と環境が並び立ち、子や孫の世代まで安心・安全に暮らせる世の中を目指して情報を発信中です。「すみゆめ」では伝統と環境、歴史ある墨田区らしさ、誰も取り残さない社会づくり、をテーマとするイベントに注目しています。

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