オンライン活用によって見出したもの【2020年度参加団体インタビュー】
2020年は、世界中がコロナ禍に奔走された一年となりました。5年目を迎えた「隅田川 森羅万象 墨に夢」でも、参加団体のみなさんはこれまで通りの活動をすることが難しくなりました。
例年以上に試行錯誤が求められた2020年、オンラインの活用に挑戦した3組にお話を伺いました。これまでとは違う形となりましたが、オンラインを使うことで新たなつながりも生まれているようです。
民話を語ろう
代表 藤山光子さん
「民話を語ろう」は、図書館の施設を利用して民話の朗読を行ってきました。団体のメンバーや来場者の中には高齢の方も多いこともあり、2020年はホールに集まるのを避けてYouTubeでの配信に切り替え、動画制作を行いました。
戸惑いながらの挑戦でしたが、配信された動画の再生数は着々と伸びているそうです。
― なぜ動画の配信をすることにしたんですか。
すみゆめには3回参加していて、2016年は定員50名の場所で、2018年は80名のホールで発表してきました。次はもっと大きなホールを借りようと私たちも張り切っていたんです。
でも7月にはホールでの発表ができないと判断して、中止することをすみゆめの事務局にお伝えしたんですね。そうしたら、Zoomで稽古してYouTubeで配信するのはどうですかって提案をいただいて。正直、戸惑いました。撮影も誰に頼んだらいいかわからないし、YouTubeに出るっていうことがどういうことなのかわからなかったものですから。
やっぱり顔が出るっていうのは恥ずかしいっていうメンバーもいて。タイトル画と音声だけで配信できないかって考えもしたんです。だけど動作や表情も語りの一部なので、それがないとやっぱり物足りないんですよね。練習を重ねていくうちに、覚悟が決まっていきました。
― 初めてのことばかりだったんですね。やってみて、いかがでしたか。
やっぱりお客さまがその場にいるのといないのとでは、空気感が違いますよね。カメラの向こうにお客さまがいると思ってやってくださいって指示をしていただいて、どうにか形にできました。やってみたら、達成感はありましたね。
こうなったらたくさんのお友達に見てもらおうということで、いろんな人に連絡したんです。民話を語ろうの会員のなかには、ほかのサークル活動をしている人もいるので、友達の輪が割と大きいんですね。配信っていう形にしたことで、多くの、遠くの人に観ていただけたと思います。ちょっと疎遠になっていた人にも久しぶりに連絡して、観てもらって。たくさんの友達に励ましてもらうことができました。
― 今後の活動で考えていることはありますか。
今は会員同士がなかなか会えないので、次の話も進んでいないのが正直なところです。私たちは民話をコツコツ語っていくことしかできないですから。またしばらくしたら、図書館や保育園で昔話を語る会をしたり、大きなホールでの発表に挑戦したいと思っています。
玉ノ井まちづくり協議会
事務局長 牛久光次さん
中西てい子さん
玉ノ井まちづくり協議会はこれまで、休校になった旧向島中学校を活用し、子どもからお年寄りまでが集まるイベント「江戸に浸かる。」を開催してきました。江戸の頃から続く大衆芸能をみたり、江戸の食などの屋台を出したり、集まってきた人それぞれがやってみたいことを実現できる場になるよう、地域の人たちが話し合いを重ね開催をしてきたイベント。年々参加者も増えていたようです。
2020年は、地域の人たちが入れ替わり立ち替わり登場する動画を制作。約7時間に渡るその様子を、YouTubeで公開しました。
- 2020年、動画配信をすることなった経緯を教えてください。
牛久:応募した春の時点では、正直、なにができるのかわかっていませんでした。やらないっていう話もあったんです。だけど1回やめてしまうと、これまでできてきた繋がりとか、途切れてしまうようなことがある気がしたんですね。
中西:私たちはこれまで、プロに頼まず、自分たちでやってみることを大切にしてきたんです。だから、最初はどうしたらいいかわかりませんでした。少しずつオンラインでできることがわかってきて、ポツポツとアイデアが集まり始めました。
牛久:これまで興味がある人来るもの拒まずで、集まってきた人と話し合いながらつくってきました。表現はそれぞれ違いますから、それを否定せずなんでも取り入れていこうっていうことで、やっているうちに職業も得意分野もいろんな人の集まりになっていたんですね。その中に動画に詳しい人がいて。最初から参加していた人だったので、私たちの関係性も知ってくれていたから、こうしてできたんだと思います。
- 印象に残っていることはありますか。
牛久:みんなそれぞれ、いろんなことをやったんですけどね。なかでも「青果リレー」っていうのは、江戸野菜を持ってまちをリレーするっていうもので。これまで3年間続けてきたことだったんです。今までは体育館を出発したら、外を走っている様子はわからなかったんだけど、今回は中継しながら地域のいろいろな店舗を回って。まちを紹介しながらのリレーになりました。これはよかったですよ。
中西:YouTubeで流すものには生配信のものだけじゃなくて、録画した動画も織り交ぜています。地域の人が挑戦したいことを発表する場にしたり、これまで関わってくれたアーティストがニューヨークから動画を送ってくれたりして。いままで人がわーっと集まっていろんなことをやっていたんですけど、今回は動画になって、一人ひとりに焦点があたった、じっくり見れる場ができたっていうのは意義のあることだったと思います。
- この先、やってみたいことはありますか。
中西:こんなこともできるんだとか、自分がやりたかったことが実現するんだって感じた人が、まちの中でいろいろな行動を起こし始めている。それは「江戸に浸かる。」をやっていてよかったことですよね。地域のなかで、なにかやってみようっていう人が出てくることに期待したいなと思います。
牛久:なんとなくまちの中が近づいてきたような気がします。いろんな活動している人が集まることで関係性ができて、いい感じになってきたように思いますよ。本当はみんな、なにかを表現したいっていうものをそれぞれ持っているんです。それを出せる場がなかなかない。自発的に活動できる場を用意しておけばいいんじゃないかと思っています。状況に応じて、またおもしろいことが生まれていくものだと思ってますから。そのときに考えていくしかないですよね。
ずぼんぼプロジェクト
古川朋弥さん(ずぼんぼプロジェクト代表)
横田光隆さん(ずぼんぼ・紙芝居アニメーション「茶わん姫ものがたり」監督)
江戸時代の玩具で、獅子舞や動物のかたちに和紙を組み立て遊ぶ「ずぼんぼ」。オリジナルのずぼんぼをつくり、実際に遊べるワークショップを開催してきたずぼんぼプロジェクトは、2020年、アニメーション制作に挑戦しました。
― アニメーションを制作することになった経緯を教えてください。
古川:ずぼんぼが動き出すアニメーションと、そこに出てくるキャラクターをつくるワークショップを組み合わせた企画をやりたいという話は、2019年からあったんです。この状況のなかでできることを考えてたとき、交流型イベントはやらず、アニメーションを見て、ずぼんぼがつくれるシートをダウンロードしてもらう形式にたどり着きました。
ワークショップのきっかけになる、見ていて楽しい映像というところから、シナリオありきのアニメーション作品に考え方がだんだんと移行していって、いい方に転がっていきました。私はアニメーションをつくるのが初めてだったのですが、すごくおもしろかったです。
― 制作の様子を聞かせてください。
横田:古川さんのキャラクターへの思い入れみたいなところを聞きながら、一緒にシナリオをつくっていきました。僕も妖怪や民間伝承みたいなところが好きなんです。今回のメインキャラクターになった「茶わん姫」というキャラクターは、付喪神(つくもがみ)というか、大事にされていたものに魂が宿るっていう要素を取り入れています。
古川:隅田川近く鐘ヶ淵伝説の要素が出てきたり、地元の工房がつくっている屏風が出てきたり。音楽はすみゆめに参加していたVegetable Recordさんがフィールドワークでつくった曲を再編集してくださったことで、この地域らしさが出ていると思います。ストーリー自体は地域のおもしろい話をコラージュするようなものではなくて、なんというか、普遍的な自然や移り変わりみたいなものを物語にしたかったんです。
横田:「茶わん姫」には、“いずれは宇宙に行き、地球上に住むすべての人に、客観的に見た地球の様子を茶碗の中に映して見せてあげたい”という野望があるんです。今回のアニメーションはその第一話みたいな位置づけで。今後も機会があれば、この続きをつくってみたいと思っています。
― 完成したものを配信してみて、いかがでしたか。
古川:これまでワークショップに参加してくれるのはファミリー層が多かったんです。だけど動画を公開したら、いろいろな層に作品として見てもらえているみたいで。含みのある部分が多いので、自分で想像を膨らませて楽しんでもらえているのかなって。
横田:動画としての反応は正直、まだ見えにくいところはあります。この作品が、次にどうつながっていくのかは楽しみです。
古川:まだまだ計画中ですが、アニメーションのアナログ化、巻物みたいなものを制作するというスピンアウト的な企画も考えていて。引き続きお披露目する機会をつくっていきたいと思っています。
編集:橋本誠
インタビュー・構成:中嶋希実