外郎売が墨田区立立花図書館に参上!【2017年レポート】
江戸時代、日本各地を巡って小田原名物の薬「外郎(ういろう)」を売っていた外郎売。外郎を売るための早口の口上で知られ、歌舞伎十八番のひとつにもなっています。「そんな外郎売が現代に蘇ったら……」という想像を膨らまして生まれたのが、この企画だそう。
荷台部分に小さなステージをこしらえた自転車で墨田区各地に出没。紙芝居や絵本の読み聞かせ、即興パフォーマンスなどを繰り広げます。これまでに出没した先は、下町人情キラキラ橘商店街やキッズサポートりまによるイベント「リマ―ソニック2017」、東京スカイツリー下のソラマチひろばと、さまざま。道行く人々や参加者たちを巻き込みながら、その場でしかできないパフォーマンスで大人も子どもも楽しませてくれます。
この日は、外郎売が墨田区立立花図書館にやって来るという情報を聞き、図書館へ。館内の児童書コーナーの一角、「えほんのひろば」に例の外郎売の自転車が見えます。
「図書館でパフォーマンスなんてして大丈夫なの?」と内心ドキドキしていましたが、ここ立花図書館は児童書が4割を占め、絵本の読み聞かせイベントもふだんから積極的に行っている図書館とのこと。児童スペースもかなり広めです。
いよいよ外郎売パフォーマンスの幕開け。まずは、ちょっと変わった「太陽さん」が主役の紙芝居から始まりました。墨田区でアート活動をする峰村峻介さんが手づくりしたこの紙芝居、なんと、顔が入るんです。観客の皆さんがいる場所に向かおうと、意地悪な雲や雨雲の中を突き進む太陽さん。雲の中をなかなか進めない太陽さんに、集まった子どもたちからは「パンチすればいい」とのアドバイスも飛び出しました。そのアドバイスを受け、雲にパンチを繰り出しながら頑張って皆のもとにやってきた太陽さんに、子どもも大人も外郎売パフォーマンスの世界に引き込まれた様子。周りで読書や勉強をしている人たちも、何事だと言わんばかりにチラチラとステージを見ていました。
皆の心をグッとつかんだところで、続いては保育力研究所の片野奈保子さんによる、絵本『ねえ、どれがいい?』の読み聞かせへ。「読み終わった後にクイズをします」との予告に、真剣に“聞く”モードに切り替わる子どもたち。より一層深く絵本の世界に入り込んでいきます。片野さんから「ねえ、どれがいい?」と、とんでもない選択肢を投げかけられる度に、率直な反応があちこちから上がって、見ているこちらも思わず笑顔になります。「読み聞かせ」といいつつも、一方的なものではなく、コール&レスポンスのようなコミュニケーションになっていたのが印象的でした。
次に登場したのは、大型紙芝居『おおきな おおきな かがやく み』。植物のように自分も実を実らせたいと願うオオカミが主人公の物語です。現役の芸大生、小久江峻さんが描いた彩り豊かな絵に子どもたちも興味津々。小久江さんの語りとともに、自転車のラッパホーンをはじめ、でんでん太鼓や鳴子といった鳴り物が物語を盛り上げていきます。
ひと仕事終えた小久江さんが発した「お腹すいちゃった」との言葉に、皆で「お弁当箱の歌」の手遊びをしてあげることに。「これっくらいの、お弁当箱に……♪」という歌を懐かしく思うと同時に、一生懸命にお弁当箱におにぎりや野菜を詰め込んでいく子どもたちの姿はとても微笑ましかったです。
さらに、そのまま食べ物の話つながりで、保育力研究所の酒井玲奈さんが『にんじんさん だいこんさん ごぼうさん』のお話をしてくれました。私も子どものころに聞いたことのあるお話。「お弁当箱の歌」同様、久しぶりに自分の子ども時代を思い出していました。
「今日のお昼には何が食べたい?」との問いかけに、思い思いの食べ物を答える子どもたち。そんな中、あの太陽さんが「お寿司―!」と子どもたちに負けない勢いで元気よく回答していました。
すると、フェルトなどで作られた納豆巻セットが登場。今回、外郎売パフォーマンスを見てくれた方々にお土産として配られるとのことです。
その前に、皆で「なっとう」の手遊びをしてフィナーレです。「なっとう、なっとう、ねーば、ねば♪」と、楽しい歌の響きと手の動きに笑い声が上がります。
最後に納豆巻セットが配られると、すぐにその場で遊び始める子たちも。一人一人、それぞれのやり方で自由に巻いていく姿には、個性と創造性にあふれていました。
この日のお昼は、納豆巻になった家庭も多かったのでは? 私もその一人。帰りに納豆巻を買って家路につきました。
レポーター:岩本 恵美(いわもと えみ)
東京・下町生まれ、下町育ちのライター・編集者。Webメディアや新聞紙面の制作に約10年携わり、2016年よりフリーランスに。アートや音楽などカルチャー全般が好きで、食わず嫌いのない雑食系です。昨年に引き続き、彩り豊かな「すみゆめ」を生き生きとレポートしていきたいと思います。