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すみだの地域資源を掘り起こす「雨水市民の会」と「ずぼんぼプロジェクト」 【2018年度・すみゆめ参加団体クロストーク】

企画名2018年度・すみゆめ参加団体クロストーク
団体名:「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会
開催日:2019年01月18日(金)

「隅田川 森羅万象 墨に夢」通称すみゆめの2018年までの活動を振り返るため、参加団体のみなさんに焦点をあてるシリーズ企画をお届けします。第3弾は、墨田区で地域資源を活用したプロジェクトを行ってきた2組から「どのような思いで企画をしているのか」「すみゆめに参加して感じていること」などのお話をうかがいました。

 

<おはなしを聞いた人>
柴 早苗さん(NPO法人 雨水市民の会)
笹川みちるさん(NPO法人 雨水市民の会)
古川朋弥さん(ずぼんぼプロジェクト)
田中一博さん(ずぼんぼプロジェクト/望月印刷株式会社)

 

<団体プロフィール>
ずぼんぼプロジェクト http://zubomboproject.blogspot.com/
2016年に立ち上げ。ずぼんぼとは、江戸時代〜昭和初期にかけて作られていた紙製の玩具。古くは獅子や虎の形があり、隅田川流域で育まれた食文化や産業(しじみ、和紙)があって生まれたもの。すみゆめでは、台東区・墨田区に拠点がある望月印刷と連携し、ずぼんぼ遊びを通して隅田川流域で育まれた産業や文化を紹介している。

NPO法人雨水市民の会 http://www.skywater.jp/
1995年に墨田区で発足。雨を活かすことで、渇水・洪水などの水危機を解決することを目指し、教育普及事業や調査研究などを行なっている。向島・鳩の街通りにある事務局には、雨・自然・環境などの絵本、約900冊をそろえ、月に1回週末の読み聞かせイベントを開催。雨に関わる様々なテーマを取り上げた平日夜のサロン企画の開催や、区内を中心に雨水活用施設をまわるガイドツアー等を行なう。

 

 

江戸の郷土玩具を復活させる「ずぼんぼプロジェクト」

ずぼんぼプロジェクトが扱っているのは、江戸時代に隅田川流域で生まれた紙製のおもちゃ「ずぼんぼ」。紙を箱型に組み立て、うちわで扇いで遊びます。地元企業である望月印刷株式会社とチームを組んで、様々な場所でワークショップなどを行ってきました。

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(写真:「ずぼんぼプロジェクト」の様子)

 

古川朋弥さん(以下、古川): 2007年くらいに編集・ライターの仕事をしていた関係で、日本の郷土玩具に興味を持ちました。調べていくうちに、出版などで何か企画をするよりも、実際に遊んでみるという体験の場づくりをしてみたくなって、なかでも自分が生まれて今も活動する場所である東京のものということで、ずぼんぼにフォーカスしました。

このような活動にはデザイナーが必ず必要になると思ったので知人に声をかけたのですが、その知人が望月印刷さんに勤められていたんですよね。

田中一博さん(以下、田中): 最初は台東区南部・徒蔵(カチクラ)エリアで行われている、ものづくりに関わる企業やクリエーター、飲食店等が参加するイベント「モノマチ」でのワークショップですね。こちらとしても、例年参加の仕方を探っていくなかで、紙や印刷にちなんだ内容は一緒にやりやすく、それがしかも地元のものでしたから。創業の地は浅草橋(台東区)のあたりなのですが、工場が業平橋(墨田区)にもあります。ずぼんぼの重りに使うシジミは、正に業平のシジミがルーツなんです。

古川: チームで動きはじめてすぐ、「すみゆめ踊行列」や「寄合」にも参加するようになりました。曳舟に藍染博物館という施設があるのですが、そこが持っている反物の柄などをずぼんぼの絵柄として使用させていただいたりもしています。デザイナーさんにうまく絵柄を組んでもらって、A4の紙をハサミで切って、糊づけしていくだけで動物のキャラクターができあがります。オリジナルキャラクターの藍犬(あいけん)を制作するなど、ただ昔の遊びを復活させようということではなく、自分たちなりに展開しています。かたちも足を長くするなどでアレンジを加えています。遊び方も、屏風に沿わせてうちわで下から風を送り込み、浮かせるというのが基本なのですが、2017年度のすみゆめではトーナメント方式でゲーム性を取り入れてみたりしました。多くの資料が残っていたり、生き字引の方がいるようなものではないので、手探りです。今なりの遊び方でいいのではないかなと思っています(笑)。

田中: 一度世の中から消えてしまったものって、昔どうだったのかを掘り起こすのが難しいですよね。

古川: 続けていくうちに、「これ知っている!」という方が現れることも期待していたのですが、ほとんどないですね。それこそ、すみだ北斎美術館の郷土玩具に詳しい学芸員さんに出会えたくらいです。

田中: 紙というところが、案外江戸らしいと言えるのかもしれません。うちは元々、印刷というよりは紙屋だったのですが、実はこのあたりで紙といえば浅草紙、お江戸で使われた紙を元にした再生紙が盛んにつくられていました。吉原の遊郭が一大需要地だったりして、山谷掘あたりで紙のすき返しをしていたともいわれています。庶民が使う紙はこういったものが元になっていた可能性が高いです。

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(写真:田中一博さん)

雨の日だけ浮かび上がる「撥水アート」を手がける雨水市民の会

柴 早苗さん(以下、柴): 循環、リサイクルという点では、私たちが扱っている雨水にも通じるものがありますね。雨水市民の会は、暮らしの中で雨水を活用しながら、水危機を解決していくことを目指す啓発、環境学習活動をさまざまなかたちで行ってきました。2016年2月まですみだ環境ふれあい館の運営もしていましたが、残念ながら閉館してしまいましたので、かたちにとらわれず、活動を広げていく手法を模索しています。すみゆめでは、水をはじく塗料を使って、雨の日だけ浮かび上がる「撥水アート」の制作などに取り組んでいます。

笹川みちるさん(以下、笹川): 初年度の2016年秋にやったのが確か鳩の街(東向島)で、その翌年からはできる場所を探すということですみゆめの事務局にも動いてもらったら、すみだ北斎美術館の敷地でできることになりました。撥水塗料で絵を描くので、恒久設置ではなく1〜2ヶ月で消えるところも多いのですが、場所によっては意外に長い期間見ることができます。

笹川: 描く場所の状態や、人通りによって持続期間はかなり変わります。すみだ北斎美術館前では、すずめ踊りや北斎の描いた達磨を描くなど、場所によってデザインを変えています。大横川親水公園にある、ささやカフェのウッドデッキに描いた際には、相談してささやさんの昔のロゴをモチーフにしました。

雨で地面が濡れた時だけ現れる絵なので、普段は雨水やその活用に意識のない方に雨のことを考えてもらうきっかけにしてもらえたらと思います。

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(写真:ささやカフェに描いた撥水アート)

 

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(写真:多聞寺での撥水アートづくり)

 

墨田で、すみゆめで活動してきた手応え

古川: すみゆめで望月印刷さんと活動する、ということが思っていた以上にやりやすく、やりがいもあります。ずぼんぼプロジェクトの場合はワークショップをする場所だけでなくて、さまざまな道具も必要なので、例えばハサミ屋さんだとか、町工場に協力してもらうことでお客さんもこの地域にある色々なことを発見でき、歴史と今をどちらも知ることができます。うちわで扇いで遊ぶ時に必要な屏風も、屏風屋さんに貸し出してもらったり、2018年はついにオリジナルの屏風も作ってもらいました。

笹川: 会としては20年以上活動していますし、まちの衛生・環境といった分野では実績を重ねてきましたが、理屈で納得してもらうだけでは世の中への浸透はこれ以上進まない気がしています。状況を打開にするためには違う分野に出ていくことが必要だという意識で取り組んでいます。

: 今年度はしっかりと見て興味を持ってくれた人が増えた気がします。作業中に制作方法についてかなり具体的なことを聞かれたりしました。

笹川: 去年の活動を見ていた人が参加したりしてくれたりもしましたよね。残念なのはこのプロジェクトの性質上、設置後にどのように見られているのかをなかなか確認できない点です。インスタグラムとかで話題になっていたらいいのですが(笑)。

笹川: 撥水アートを大人数で制作するのは難しいですし、数を増やすことが目的ではありませんが、昨年度行った「雨のつぼ庭」づくりなどはNPOとして継続していきたいです。雨水を直接下水道に流さず、受け止める小さなポケットを町にたくさん作る取り組みです。デザイナーさんや庭師さんにも協力してもらい、雨を留めやすいよう、植物の種類、土や石の入れ方なども工夫してつくる軒先ガーデニングといえばイメージしやすいでしょうか。地域の拠点づくりやリノベーション関係の人たちと連携すれば、広めていけそうな気がします。
路地尊や手押しポンプの存在は知っていても、それらが雨水活用に関わるものだと知らない方もいますので、いろんなアプローチを考えていかないと。

古川: 雨水の巡りそのものをデザインする、みたいな考え方、楽しいですね。

: 路地園芸のプランタへ工夫して雨水を引いている人とかもいますものね。

笹川: いろんな方々と連動してやれるといいです。すみゆめだと、「踊行列」だとか寄合の時に他の団体の方と交流できたりして、具体的には、水質調査などをやっている会社、ミズラボさんに出会えました。

(写真左:笹川みちるさん 右:柴 早苗さん)

 

田中: すぼんぼプロジェクトは、「北斎祭り」や「江戸に浸かる。」など、他団体の活動に参加させてもらいました。毎回自分たちでゼロから機会をつくっていくのはなかなか大変なので、ある程度ベースがあるところ、人が来るのがわかっているところに参加させてもらえるのはありがたいです。

古川: そうですね。やはり定期的に顔を合わせる機会があるので、そういった場で一緒に活動できそうなところなどを探したりはしやすいと思います。墨田でのやり方というのは見えてきたので、個人的には、これを異なる地域でその場所らしさを取り入れながら紹介していく、といったことにも挑戦できたら面白いかなと考えています。

 

クロストークはここまで。

 

それぞれに墨田区の地域資源を掘り起こす2団体。現状に満足せず、様々なアプローチで活動を広げ、深めていく姿勢がよく分かりました。区外での活動も視野に入れているということで、それぞれの取り組みが引き続き楽しみです。

 

 

編集:橋本誠(ノマドプロダクション)
2019年1月18日事務局(公益財団法人墨田区文化振興財団 内)にて収録

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