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光と影と音の循環【2019年イベントレポート】

企画名すみゆめ踊行列「影絵:水と油の輪っかっか」
団体名:「隅田川森羅万象墨に夢」実行委員会
開催日:2019年09月29日(日)
会 場:緑町公園(すみだ北斎美術館前)

両国駅から歩いてすみだ北斎美術館へ。手前にある小さな公園には、日曜の夕暮れにも関わらずたくさんの子どもが集まっていました。

子どもたちがソワソワしながら待っているのは、ここではじまる影絵の公演。開始時間の18:00、スクリーンの前に用意されたシートに入り切らないほどの子ども、そして大人が同じ方向を向かって座っています。

子どもたちの興味が遊具に集まりだしたころ、スクリーンにカエルの姿が映し出されました。

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「こんばんは!カエルのヤマダと申します!ちょっと機械のトラブルで、今マイクが使えないんですよー」

 演じているのは音楽家であり影絵師の川村亘平斎さん。インドネシアで影絵人形芝居ワヤン・クリットと伝統打楽器ガムランを学んだアーティストです。公演をはじめられるまでの間、大きな声を張り上げて影絵についての紹介をしはじめました。

遊具で遊んでいた子どもたちもワっとスクリーンに集まってきます。

「え、こっちからも見えるよ」

「丸見えじゃんかー」

「これ、人が1人でやってるぞ!」

川村さんが演じているスクリーン側仕切りなどはなく、演じている様子や仕組みを誰でも見ることができるようになっています。

「表でも裏でも、好きなところで見てもいいのがこの影絵なんですよ。」とカエルのヤマダさん。集まってきた子どもたちと一緒に、影絵で遊びはじめました。

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そうしているうちに機材が直ったようで、公演がスタート。

川村さんが滞在していたというインドネシアのものなのか、不思議な歌声とともにギターとスティールパンの音が響き、影絵が映し出されました。子どもも大人も、自分の好きな位置からそれぞれにスクリーンを見つめます。

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今回上映されたのは、この日のためにつくられたという2つの物語。

着想を得たのは、雨水の循環を考える「雨水市民の会」と廃油を回収してエネルギーに変えている「TOKYO油田」という、この地域で活動する方々の話なんだそうです。

まず映し出されたのは「あまみずのこどもたち」という物語。空から降りてきた雨水の子どもたちが、地上で花を咲かせていくお話です。

雨水の子どもたちを演じたのは、ちょっと緊張気味な地元の子どもたち。影絵で使う花をつくるワークショップなどにも参加して、一緒に準備をしてきました。

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雨が降り種に触れると、花がどんどん芽吹いていきます。

色とりどりの花が増えるにつれてにぎやかな音楽が響き、シートに座ってていた子どもたちも立ち上がりはじめました。飛び跳ねたり声を出して、物語に参加しているように見えます。

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「せっかくだから、公園中に花を咲かせよう!」と川村さん。集まってきた子どもたちとともに、観客の周りを走りはじめました。

日が暮れた暗さと音楽、子どもたちが花を持って走り回る光景が相まって、どこか公園ではない場所にいるような感覚に浸ります。 

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続く物語は「花と怪獣」。

最初は興味もなさそうに別の遊具で騒いで遊んでいた子どもたちも、いつの間にかじっとスクリーンを見つめています。

映し出されていくのは、欲深い怪獣が美しい花を手に入れようとするなかで、優しい心に気づいていくお話。

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怪獣は花を育て、いずれ花が枯れてしまうことに悲しみながらも、残った種を撒いていきます。

「お花さんよ、この種を植えれば、またあんた達に会えるんか。わしゃこの種を植えて、もう一度ここに花畑をつくる。世界一の花畑をここにつくってみせるわい!」

「わし1人で撒いても世界一の花畑をつくるには足りんな。そこの子たち、手伝ってはくれんか?種を撒いてくれる子はおらんか?」

その呼びかけに子どもたちが集合。スクリーンに裏にも表もなくなって、あちこちに種を撒きました。

「たくさん撒けたぞ。これで雨のひとつでも降ればなぁ。」

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2つのお話は別々のようで、どこかでつながっているのかも。

そう思ったところで終わりの時間がやってきました。

「怪獣が撒いた種で花が咲くのは、雨水の子どもたちが咲かせた花かもしれない。それがどんどん繰り返されていく。それが雨水市民の会やTOKYO油田の方々が取り組んでいる活動、僕らでエネルギー資源をもっと循環させて使っていきましょうよっていうメッセージにえればと思っています」と川村さん。

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今回、影を映し出す光をつくっていた電気は、TOKYO油田が地域で集めた油によって生み出されているそ
う。「私たちの活動が、こんなふうに物語になるのは、すごくうれしいですよね」と話してくださいました。 

一方雨水市民の会では、雨を都会のなかで循環させ、雨とともに暮らしていく方法を提案しています。すみだ北斎美術館の入り口につくったという「雨の日アート」は、公演を見たあとの子どもたちで盛り上がりまし
た。

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光と影と異国の音楽がつくりだした影絵公演「水と油の輪っかっか」。このお話が見ていた子どもたち、そして大人たちの頭の片隅に残ることで、これからもさまざまな循環が生まれていくのかもしれません。

参考レポート:すみだの地域資源を掘り起こす「雨水市民の会」と「ずぼんぼプロジェクト」【2018年度・すみゆめ参加団体クロストーク】

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中嶋希実(なかじま きみ)
1985年生まれ、茨城・取手育ち、龍ケ崎在住。川沿い畑付きの家で暮らしながら、東京と茨城と出張先あたりにいます。話を聞いたり、書いたり、動かしたりしながらいくつかのプロジェクトに関わっています。ときどきチャイ屋「きみちゃい」をひらきます。

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