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ゆとりあるまちの未来を見据えた、発展的まちづくりの集大成 「向島国際デザインワークショップ2019-連鎖的共同体―」成果発表展・シンポジウム

企画名「向島国際デザインワークショップ2019-連鎖的共同体―」
団体名:向島国際デザインワークショップ2019実行委員会
開催日:2019年12月21日(土)~12月22日(日)
会 場:すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)(墨田区東向島2-38-7)

向島国際デザインワークショップ2019の成果発表会とシンポジウムが、1221日(土)と22日(日)に、すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)にて開催されました。

会場では、11月から12月にかけて、約2か月にわたり、7つのグループにより催されたワークショップの展示やプレゼンテーション、シンポジウムなどが開かれ、「向島国際デザインワークショップ2019の」全貌が紹介されました。

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21日(土)には、各ワークショップを企画したグループのプレゼンテーションを行いました。同日開催されたシンポジウムでは、明治大学教授の山本俊哉さんをモデレーターに迎え、ユートリヤ設計者の建築家・長谷川逸子さん、アーティストのティトゥス・スプリーさん、現代美術作家の北川貴好さん、京島長屋文化連絡会の後藤大輝さんらが登壇。約20年間にわたって引き継がれてきた、建築、アートを取り入れたまちづくりや、そこから生まれた“連鎖的共同体”について、当時を振り返りながら語りました。

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1998年に開催された「向島国際デザインワークショップ」を起点に、墨田区の向島や京島では、まちの面白さに惹かれて住み着いた人々が、さまざまなイベントを催すようになりました。

当時の「向島国際デザインワークショップ」は、建築家や社会学者などのアドバイザーを迎えて、国内外から100名以上の学生が集い、向島の将来像を考えることを目的にした、大規模な催しでした。

それから約20年の時を経て、まちの様相も変化しつつあります。駅前エリアの再開発が進み、東京下町の原風景が残る向島でも、建物の老朽化による長屋の取り壊しがはじまっています。その間にも、向島や京島には、まちに惹かれたクリエイターやアーティストたちが移住し、個性的なお店を開いたり、アートイベントを企画したりする活動が、現在もゆるやかに続いています。

photo3後藤大輝さん(左)と北川貴好さん

この20年間で、向島のまちのことを考えるようなアクションを起こす流れが自然と生まれ、人と人がつながっていく状況を、向島国際デザインワークショップ2019実行委員会のメンバーである後藤大輝さんは、“連鎖的共同体”と名付けました。

「向島国際デザインワークショップ2019は、向島の住人をはじめ、カフェの店主や写真家など、まちをよく知る人々が中心となってワークショップを開催し、“連鎖的共同体”が、どのようにまちに働きかけているかを実証していく試みとして企画されました。

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その一例として、1116()には、ドイツ人アーティストのティトゥス・スプリーさんと、プランナーの笹川みちるさん、画家の海野良太さんによるワークショップ《すき間マッピング》が、京島にあるsheep studio(シープスタジオ)にて実施されました。本企画は、隙間の概念からまちを見直すことをテーマに、まちなかの隙間を探し、そこで見つけた隙間から、ゆとりのあるまちの未来を考えることを目的にしたもの。

1990年代に、留学生として来日したスプリーさんは、細い路地が迷路のように入り組み、戦後の面影を残す古い木造家屋が密集する向島の風景を見て、「まちのスケールは小さいけれど余裕があり、独特の力を持っている」と感じたのだそう。

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20年前には、長屋のリノベーションをいち早く行い、一時期は向島に住んでいた経験もあるスプリーさん。「向島の面白さは複雑で多面的なところ」と話し、まちなかにある隙間(空き地や空き家)を使ったアートイベント「向島ネットワーク2000」(2000年)の企画や、「向島博覧会」(2001年)にアーティストとして参加するなど、独自の視点でリサーチを続けてきました。

スプリーさんは、1998年の「向島国際デザインワークショップ」の参加者でもあり、「向島は建物が密集しているまちだけれど、いろんな隙間がある。それは空間的な隙間であり、時間的な隙間でもある。そこから新しい活動をしてみたいと思うようになった」と、当時を振り返ります。

向島の持つ独特の力が、まちの「余裕」や「隙間」にあるのではないかと考えたスプリーさん。ワークショップ前半では、まちあるきをしながら、参加者一人一人にまちの隙間を発見してもらい、それを撮影して、参加者同士で共有。後半は、自分たちが見つけた隙間に対する感想を文章にまとめつつ、そこからキャッチフレーズを考えて半紙に書き写し、掛け軸に仕立てました。

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参加者の中には、「古いまちなみが残り、近代化の真逆をいく向島というまちそのものが、現代の隙間なのではないか」といった意見もあり、 “隙間”に対するさまざまな解釈が見受けられました。

スプリーさんは、「実験的なワークショップだったが、参加者それぞれの新鮮な見方でまちを見てくれてよかった」と笑顔でコメント。

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イベントの企画者である後藤さんは、「現在、向島は大きな転換期を迎えようとしている。新たにまちを開発する方向か、古くからある暮らしをリノベーションしながら活かす方向か。まちの未来にはどちらも必要なことだけれど、一連のワークショップを通して、向島の10年先、20年先を考えるきっかけになれば幸いです」と語りました。

12月21日に行われたシンポジウム内では、「向島国際デザインワークショップ2019」で行われた取り組みを、今後も継続しつつ、2020年夏には、「すみだ向島EXPO2020」を開催することを発表。まちの魅力や可能性を引き出すために「隣人としあわせな日」をテーマにしたイベントになるとのこと。向島に住み着いたアーティストやクリエイターたちが、地元住民とともに、まちが築いてきた文化を育みつつ、まちの可能性を高めていくことが期待されそうです。

20年前に行われた取り組みを起点として企画された、今回の「向島国際デザインワークショップ2019」。人と人、人とまちがゆるやかにつながる“連鎖的共同体”は、まちと関わることの大切さを実感させてくれました。向島というまちの可能性を探り続けていくことが、あらゆるまちづくりのヒントになっていくのではないでしょうか。

 レポーター:田中未来(たなかみき)
美術館めぐりと田舎旅が趣味のフリーランスライター。都内の展覧会レポートを中心に、まちあるきやアートに関する記事を執筆。

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