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墨田区の歴史、日常を切り取った『イースト・すみだ・ストーリー4〜作品探しの校外学習〜』【2022年イベントレポート】

企画名夢劇アンソロジー『イースト・すみだ・ストーリー4〜作品探しの校外学習〜』
団体名:すみだパーク演劇部・扉座大人サテライト
開催日:2022年11月10日(木)〜11月13日(日)
会 場:すみだパークギャラリーささや

「大人の部活動」をコンセプトに、すみだパークスタジオと劇団扉座が開校した演劇塾による舞台公演。4回目のすみゆめ参加となる今作では、プロデューサー・作家・演出家・演劇部員が、すみだの街へ取材に出掛け、その取材を基に作家が作品を書き上げ舞台化するという新しい試みに挑戦しました。 

企画の立ち上げから公演までの様子を、オムニバスの中の1作で脚本・演出を務めた串間保彦(劇団扉座)がレポートします。

公演に向けて、まずはどのような作品を創るか会議を行いました。

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1年目から3年目までは、葛飾北斎をはじめ、墨田区に所縁のある人物や、50歳以上の登場人物たちが織りなす物語を中心に作品を創っていました。3年目の時により深く北斎の事について誰かに話を聞きたいと模索していたところ、墨田区文化芸術振興課にご協力いただき、すみだ北斎美術館の学芸員さんにお話を伺える機会をいただきました。
その時、インタビューを通じて、働いている学芸員さんたちの仕事に対する姿勢や考え方触れる事が出来、とても魅力を感じ、学芸員を主役とした作品を創りました。

『ナイト・北斎・ミュージアム』イースト・すみだ・ストーリー3 より

『ナイト・北斎・ミュージアム』イースト・すみだ・ストーリー3 より

仕上がりに手応えを感じ、お客様からも好評でした。
この経験から、今回はより深く地域に関わり、墨田区の魅力を伝えられる作品づくりを目指そうと、【取材によって作り上げるオムニバス公演】という企画が立ち上がりました。
有難いことに4度目の採択となり、早速取材先の候補を挙げ、アポをとって行くこととなりました。

しかし、そこからが大変でした。
墨田区は興味が湧く出来事で溢れていたのですが、古い出来事で詳細が不明なものや、コロナ禍の影響による休業・取材困難、アポを取ること自体が難しい所など、取材は難航しました。 

そんな時、作家の1人が「和菓子が好きだから」という理由で話を聞いてみたいと、向島の和菓子の名店『言問団子』さんが、取材先希望として挙がりました。
今回の企画で、熟練の歴史ある職人さんに話を聞きたいと思っていたので、電話をしてみると、店主の外山さんが「力になれる事があるなら、なんでも話すよ」と、二つ返事で取材を快諾してくれました。
資料もなく、自分達の紹介も不十分な状況での問い合わせに対して、快く引き受けて下さるなんて、「これが墨田の職人の懐の深さか!」と興奮しました。

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その後も、演出担当者や出演者がお店に突然お邪魔してもご主人は優しく迎えてくれ、作業中の服装の事や台本の内容に関して質問すると、「取材用の作業着はあるけど、作業中はあんこで服がドロドロになるから、人には見せられない恰好をしているよ()」とか、「劇中で、団子をつまみ食いして注意されるシーンがあるけど、むしろ職人には味を知るためにどんどん食べさせている。食品ロスを減らすためにも、捨てるような事はしないよ。」など、事実と異なる部分があっても【創作】として受け入れて下さり、実際使っている道具なども見せて話してくださったりと、演出・演技の参考になりました。 

この取材を皮切りに、区や、すみゆめ事務局の協力もあり、【寺島・玉ノ井まちづくり協議会】【すみだ水族館】と、自分達だけではなかなか繋がる事が難しいところへも取材に行くことが出来ました。
特に、ペンギンの事について取材させていただいた【すみだ水族館】では、水族館の歴史やペンギン達の水族館での様子を聞けたり、水族館内を案内してもらいながらペンギン達に話しかける姿から、ペンギンに対する愛情などが伝わってきて、ネットで調べただけでは分からない事がたくさん体感出来ました。台本に対しても演劇であることも踏まえたペンギンの生態や言葉のアドバイスを頂き、大変参考になりました。
こういったサポート体制があるのは、このプロジェクトの強みでもあり、とても有難いと感じました。

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 実話をそのまま脚本化することは、実は簡単ではなく、面白い話にする為にも作家はかなりの手間と時間を必要とします。ものすごく大変です。
ですが、実際足を運んで直接お話を伺えたことにより、その人柄や成り立ちに触れ、そこからのインスピレーションによって新しいアイデアも生まれました。
そして、実在するお店を扱ったり実話を扱う上で、事実とのズレが生じた際、どの方も創作として受け入れてくれた事は、創作活動をする者としては大変有り難かったです。
公演時には、取材に協力してくださった方や、そのお知り合いの皆さんも観劇してくださり、新しい繋がりも広がりました。 

取材を終え、全7作品が揃いました。

『墨田区民のタイヘイさん』(脚本:串間保彦 / 取材協力:すみだ水族館)
墨田区特別住民票を授与されたペンギンたちから着想を得たファンタジー作品。

・『寺島茄子日和』(脚本:松井英弥 / 取材協力:NPO法人 寺島・玉ノ井まちづくり協議会)
関東大震災をきっかけに絶滅してしまった、江戸野菜【寺島なす】を復活させた人たちから着想を得た話。

・『言問団子』(脚本:白鳥雄介 / 取材協力:言問団子)
「団子の出来が悪く、開店しなかった日がある」というお話から着想を得た話。

・『仏の平蔵捕物帳』(脚本:松井英弥)
墨田区に点在する【鬼平犯科帳ゆかりの高札】その鬼平犯科帳のモデルとなった長谷川平蔵を描いた創作劇。

・『フロアーに口づけを』(脚本:釘本光)
かつて墨田区に存在していたディスコ【グリーングラス】そこで青春時代を過ごした人たちの再会を描いた創作劇。

・『おこと〜絵師の女房〜』(脚本:釘本光)
葛飾北斎とその妻、おことの物語。

・『ラビラント』(脚本:小橋川亜希)
かつて墨田区にあった町『玉の井』。その時代を過ごした【永井荷風】や、まだ日本に馴染みがなかった【サンタクロース】を交えて描いたファンタジー作品。

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今回の公演では、観に来たお客さんにとっても身近な話が多く、演劇を初めて観る方にも「馴染みある話で、とても観やすかった。」と好評でした。
これらの物語を通して、観劇して下さった皆さんが、墨田区の歴史や、今を生きる人達の逞しさを感じてもらえたら、そして、それが広がり、たくさんの人がすみだの街に興味を持ってもらえたら幸いです。 

今回、取材をする先々で、人と人との繋がりを大事にしてきたこと、そして新たな繋がりもまた、大事にしているのだと深く感じました。
僕自身、知らなかったり、知っていても足を運んだ事がなかった場所に行き、新しいものに触れられた事は、今後の創作活動の糧になっていくと思います。
他のすみゆめ企画参加者の皆さんを通じても、また、新しい『すみだ』を知れるのが楽しみです。

串間保彦(くしまやすひこ)
演出家。2008年に、横内謙介の主宰する劇団扉座に入団。俳優として劇団公演などに出演。

演出家に転向後、舞台制作・俳優育成など多岐にわたり活動。
2023年3月2日(金)~3月5日(日) すみだパークシアター倉にて、演出舞台『リボンの騎士2023~県立鷲尾高校演劇部奮闘記~』(脚本:横内謙介)を上演。

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