HOME / レポート / 夜の水族館で味わう非日常、北斎海洋音画界【2016年レポート】

夜の水族館で味わう非日常、北斎海洋音画界【2016年レポート】

企画名北斎海洋音画界
団体名:妖怪音描企画
開催日:2016年10月29日(土)
会 場:すみだ水族館(墨田区押上1-1-2)

 ハロウィンが間近に迫る1029日 、東京スカイツリーのふもとにあるすみだ水族館で、すみゆめの参加企画として「北斎海洋音画界」が開催されました。内容は、音楽家・木村恵太郎さんの演奏と共に、画家・角田晴美さんが絵を描くというもの。魚やペンギンに囲まれ、時折動物たちの鳴き声も聞きながら味わう音楽とライブペインティングは、幽玄の雰囲気を醸しながらもトークはとてもユーモラスで、得難い体験を楽しみました。

1

 まず水族館内に入ると、おしゃれできれいな空間と、ほのかに漂うアロマ演出に癒されす。ウッド系の香りを楽しみながら、水草の緑色が鮮やかな水槽を見ていると、まるで森の中を歩いているかのよう。また、すみだ水族館では「北斎海洋音画界」の他にも、「北斎はさかな好き?」と銘打ち、葛飾北斎関連のイベントが目白押し。すみゆめ参加企画でもある「北斎とんとん相撲」などの実施を予定しています。私が訪れた時には「北斎のさかなを、探せ」が開催されていました。

2

  水槽の中を覗いてみると、北斎の絵に登場する魚たちが。ドジョウやニホンウナギなど、いろいろな魚がいましたが、とりわけユーモラスだったのがナマズ。絵に登場する剽軽さそのままの顔を見せてくれます。

3

 北斎が活躍した江戸時代は、金魚が庶民に愛され、庶民文化として根付いた時代でもあります。すみだ水族館は2014年に「東京金魚プロジェクト」を立ち上げ、活動中とのこと。金魚柄ののれんや金魚ねぷたなどで粋に飾られた空間「江戸リウム」では、金魚たちがすいすいと回遊していました。

4

5

 ライブペインティングは水族館の見どころの一つであるペンギンの泳ぎ回る水槽の前で行われました。木村さんの演奏が始まると、最初は真っ白だった画布に、徐々に角田さんの手による墨絵が。すみだ水族館にもたくさんいるクラゲが描かれると、木村さんが「半透明の僕」というクラゲをモチーフにした曲を奏でるなど、会場と曲と絵が全てマッチした、素晴らしいコラボレーションを見せてくれます。

6

 木村さんも角田さんも、大人の観客を楽しませるだけではなく、会場にたくさん来ていた子供たちにも大人気で、休憩時間や終演後は引っ張りだこ。時候柄、魔女など、ハロウィンの仮装をした子の姿も見えましたが、白い着物の角田さんは、さながら美しい幽霊のようだったので、和洋の魔物がうまく揃った形になりました。

7

 完成した絵は、北斎もモチーフとして描いた動物・オットセイがダイナミックな波濤から身を起こしている姿。北斎の描く動物は目が活き活きとして、表情豊かなのですが、角田さんの描いたオットセイも、躍動感があり、今にも動き出すかのような生命力を湛えています。

8

 角田さんは観客から見て裏から絵を描くため、出来上がりを反転させて想像するのが難しそうに思えるのですが、「裏から見ても絵になっているので、難しいわけではない」ということでした。確かに、裏に回って見ても見事な絵になっていました。表裏どちらから見ても成立しているなんて、なんだかちょっと不思議ですね。

9

 すみだ水族館は、魚や水辺の生き物を楽しむだけでなく、「北斎海洋音画界」のようなさまざまな工夫を凝らしたイベント等を開催し、幅広い年代や趣向の人が楽しめるようになっています。ライブペインティングは、「夜の水族館」という非日常性も手伝い、観客を異世界の空気に巻き込みながら、盛況のうちに終わりました。木村さんと角田さんが今後どのような世界を見せてくれるのか、またすみだ水族館が今後どのような企画を実施するのか、とても楽しみですね。

10

 

レポーター:中野昭子(なかのあきこ)

システム系の会社にSEとして在籍しつつ、派遣先の株式会社IHIエスキューブが運営する美術紹介サイトArt inn(http://www.art-inn.jp/)の編集部員として活動中。その他、美術系のサイトや雑誌に執筆しています。芸術全般が好きですが、特に興味があるのは写真を使ったアートと文学です。分かりやすく伝わるようにレポートし、少しでもたくさんの方に喜んでいただける記事を書きたいと思っています。

 

  • 0
  • 0
    Twitter